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【ミクロ経済学(1)】消費者の好みの構造 ~選好、無差別曲線、限界代替率~

はじめに

 消費者は自らの好みと予算に従って何をどの程度買うのかを決めます。このうち、予算は要するにお金の話であるため具体的で分かりやすいのに比べて、好みは抽象的で分かりづらい概念です。経済学では、この好みという概念をどのように捉えるのでしょうか?この記事では、好みに関する標準的な仮定と、その仮定から導かれる好みに関するいくつかの性質を紹介します。ぜひ最後まで楽しんで読んでくださいね!

目次

財についての仮定

 本題に入る前に、この記事での(モノやサービス)に関する仮定を2点述べます。

 1点目は、この世に財は2種類しかないという仮定です。これは2財モデルといわれるものです。実際には、この世には膨大な数の財がありますが、簡略化のために2種類しかないと仮定します。一見、あり得ないまでの簡略化のように見えますが、経済学のエッセンスを理解するためにはこれで十分なことが多いです。

 2点目は、その2財はいずれも分割可能であるという仮定です。分割可能とは、任意の量で消費が可能という意味です。例えば、家は1軒、2軒と整数値でしか購入できないので分割可能ではないですが、電気は100.1キロワット時、123.45キロワット時など、任意の量で消費することができるので分割可能です。前者を分割不可能財、後者を分割可能財と言います。この仮定により、数学的な分析が容易になります。こちらも、モデルを単純化しすぎているような気もしますが、経済学のエッセンスを理解するためには十分なことが多いです。

選好とその仮定

 消費者の好みのことを、経済学では消費者の選好といいます。選好とは、「あっちの選択肢より、こっちの選択肢が良い」といった選択肢の好みのことです。この記事における選択肢とは、1つめの財(財1)をいくら消費して、2つ目の財(財2)をいくら消費するかということです。したがって、任意の選択肢 xは、非負の実数 x_1,  x_2を用いて、

 x = (x_1, x_2)

と表すことができます。これは、財1を x_1消費し、財2を x_2消費する選択肢を意味しています。この章では、これらの選択肢間の選好関係についての、経済学における標準的な仮定を紹介します。

 ここで、選択肢間の選好関係についての記述を簡単にするために、記号を3つ導入します。 \succsim \succ \simです。まず、選択肢 xが選択肢 yと同等かそれよりも好ましい時、これを

 x \succsim y

と表します。次に、 y \succsim xでない時、これを

 x \succ y

と表します。これは、 x yよりも好ましいという意味です。最後に、 x \succsim yかつ y \succsim xである時、これを

 x \sim y

と表します。これは、 x yが同等に好ましいという意味です。

 経済学では、これらの選好関係 \succsim,  \succ,  \simについて、標準的には以下のような仮定をおきます。

  • 完備性: 任意の選択肢 x yについて、 x \succsim yまたは y \succsim xが成り立つ
  • 推移性: 選択肢 x,  y,  zについて、 x \succsim yかつ y \succsim zならば x \succsim zである
  • 強単調性: 選択肢 x = (x_1, x_2),  y = (y_1, y_2)について、 x \ne yかつ x_1 \ge y_1かつ x_2 \ge y_2ならば、 x \succ yである
  • 強凸性: 選択肢 x yについて、 x \sim yならば、 0より大きく 1より小さい任意の実数 \lambdaについて、 \lambda x + (1-\lambda) y \succ x \sim yである

この記事では、さらに次の仮定も要請することとします。

  • 連続性: 選択肢の集合がなす曲線 x(t) ( 0 \le t \le 1)と選択肢 yについて、 x(0) \succ yかつ y \succ x(1)ならば、 x(t') \sim yとなる t' \in (0,1)が必ず存在する

以下でそれぞれの仮定の意味を見ていきましょう。

 1点目に、完備性についてです。これは、あらゆる選択肢が比較可能であるということを意味しています。

 2点目に、推移性についてです。これは、選好が首尾一貫しているということを意味しています。

 3点目に、強単調性についてです。これは、多ければ多いほど好ましいということを意味しています。

 4点目に、強凸性についてです。これは、非常にざっくり言うと、中間が好ましいということを意味しています。例えば、極端に財1の消費が多い選択肢 (100, 2)と、極端に財2の消費が多い選択肢 (2, 100)が同等に好ましい時、これらを 50:50ブレンドしたバランスの取れた選択肢 (51, 51)の方が好ましいということです。これを任意の同等に好ましい選択肢 x,  yブレンドの割合 \lambdaに一般化したのがこの仮定です。完備性、推移性、強単調性に比べ、強凸性は少々不自然に感じられるかもしれません。しかし、この性質により、数学的な分析が容易になり、また、経済学的に妥当な結果が得られるため、このような仮定をおきます。

 5点目に、連続性についてです。これは、選択肢を連続的に変化させた時に選好がいきなり変化しないことを意味しています。この性質は、私の知る限り、あまり一般的には仮定されませんが、不自然でもないため、この記事では仮定させてください。ただし、通常、選好の連続性はもっと別のものを指すので、他の文献を読む時には注意してください。

無差別曲線

 選択肢 xと同等に好ましい選択肢の集合を xを含む無差別集合といいます。ここで、横軸に財1の消費量、縦軸に財2の消費量をとる2次元平面(消費平面)を考えると、無差別集合は、消費平面上の曲線として描けます(すぐ後で示します)。これを無差別曲線といいます。無差別曲線は、消費者の消費を分析するにあたって中心的な役割を果たす概念です。この章では、無差別曲線の標準的な性質について紹介します。

 その前に、無差別集合が曲線になることを示します。まず、消費平面上で、選択肢 xを含む無差別集合を図示しようとすると、下の図のようになります。

無差別集合は曲線になる
この時、選好の強単調性から、 xの右上の領域にある選択肢は xよりも好ましく、 xの左下の領域にある選択肢は xより好ましくありません。したがって、無差別集合は、 xの左上および右下の領域にしか広がれません。これが無差別集合上のすべての点で成り立つので、無差別集合は曲線でなければなりません。

 この無差別曲線は以下のような性質を持ちます

  1. 右肩下がり
  2. 消費平面内部で途切れない
  3. 原点から見て無差別曲線よりも奥の領域の選択肢は、無差別曲線上の選択肢よりも好ましく、手前の領域の選択肢は、無差別曲線上の選択肢よりも好ましくない
  4. 原点に対して凸である
  5. 同等に好ましいわけではない2つの選択肢を通るそれぞれの無差別曲線は交わったり接したりしない
  6. 原点から遠い無差別曲線上の選択肢ほど好ましい

これらを示していきましょう。

 まず、1番目の性質については、選好の強単調性から自明です。

 2番目の性質については、仮に無差別曲線が下図のように消費平面の内部の点 xで途切れるとしましょう。

無差別曲線は消費平面内部で途切れない
この時、上図のように、無差別曲線を迂回して、 xより好ましくない yと、 xより好ましい zを結ぶ曲線が描けます。この曲線上には、選好の連続性から、 xと同等に好ましい点があるはずです。しかし、これは、無差別曲線が xで途切れていることに矛盾します。したがって、無差別曲線は消費平面の内部で途切れることができません。

 3番目の性質については、選好の強単調性から自明です。

 4番目の性質については、下図をもとに説明します。

無差別曲線は原点に対して凸
上図のように、無差別曲線上の任意の異なる2点 x,  yを考えます。この2点を結ぶ線分上の任意の点 zは、選好の凸性から x yより好ましいです。したがって、3番目の性質より、 zは原点から見て無差別曲線よりも奥の領域にあるということになります。これが、無差別曲線上のあらゆる場所で成り立つわけですから、無差別曲線は、原点に向かって出っ張った形でなければなりません。

 5番目の性質については、仮に x \sim yではない x,  yを通る2つの無差別曲線が zで交わったり接したりしたとします。この時、無差別曲線の定義から、 x \sim z,  z \sim yです。したがって、選好の推移性から x \sim yが成り立ちますが、これは矛盾です。ですから、交点あるいは接点 zは存在してはいけません。

 最後に、6番目の性質は3番目の性質から明らかでしょう。

 以上のことから、消費平面上の無差別曲線群は下図のようになることが分かります。さながら、右上遠方に頂上を持つ山の等高線のようです。

消費平面上の無差別曲線群

限界代替率

 財1を得るために財2をどの程度犠牲にできるかの尺度を財2の財1に対する代替率といいます。代替率が大きければ、沢山の財2を犠牲にしてでも財1を得たいということになります。反対に、代替率が小さければ、財1を得るために財2をそこまで犠牲にしたくないということになります。この章では、この代替率の正確な定義と、それが持つ性質を紹介します。

 まず、無差別曲線を使って代替率を正確に定義します。無差別曲線上に点 xがあるとして、ここから \Delta x_1だけ財1の消費を増やしたい場合を考えます。このとき、無差別曲線の性質から、下図の \Delta x_2までなら財2の消費を減らせることが分かります。

代替率の定義
なぜなら、この時、 x' = (x_1 + \Delta x_1, x_2 - \Delta x_2) xと同等に好ましくなるからです。仮にこれよりも \Delta x_2を大きくすると、 x'は原点から見て無差別曲線より手前の領域に入ってしまうので、より好ましくない選択肢となってしまいます。したがって、 x' xを通る無差別曲線上になければなりません。この時の \Delta x_2 / \Delta x_1が代替率の正確な定義です。

 このように代替率を定義すると、代替率は xにも \Delta x_1にも依存することが分かります。このうち、 \Delta x_1については、 \Delta x_1 \to 0なる極限を取ることで、依存性を消し去ることができます。これは xにおける局所的な代替率であり、限界代替率と呼ばれます。これを MRS(x)と書くことが多いです。定義より、 MRS(x) xにおける無差別曲線の接線の傾きの絶対値に一致します。ただし、ここで、 MRS(x)をよく定義するために、無差別曲線は滑らかであるということを新たに仮定します。なぜなら、仮に無差別曲線が滑らかでないなら、接線が一つに定まらないからです。

 さて、ここで、さらに新たな仮定をおきます。それは、無差別曲線は財1や財2の軸とぶつからないという仮定です。これは、財1や財2は互いに他方を完全に代替することはできないという意味です。例えば、仮に、 (5, 4)を通る無差別曲線が (10, 0)で財1の軸にぶつかるとしましょう。このとき、 4の財2は 5の財1で完全に代替できるということになります。しかし、現実には、一方の財が他方の財を完全に代替することは稀でしょうから、そのようなことは考えない、というわけです。

 以上の仮定のもとで、限界代替率は以下のような性質を持ちます。

  1. 同一の無差別曲線上の2点 x = (x_1, x_2),  y = (y_1, y_2)について、 x_1 \lt y_1ならば MRS(x) \gt MRS(y)
  2. 同一の無差別曲線上で、 x_1 \to 0とすると、 MRS(x) \to \infty
  3. 同一の無差別曲線上で、 x_1 \to \inftyとすると、 MRS(x) \to 0

以下でこれらを示していきましょう。

 まず、1番目の性質について、無差別曲線は原点に対して凸であったことを思い出すと、自明に分かります。これを、限界代替率逓減といいます。経済学的には、財1が多ければ多いほど、財1の価値が下がるので、新たに財1を得るためにわざわざ財2を犠牲にしたくなくなるという意味です。

 2番目の性質について、仮にそうならなかったとすると、無差別曲線は財2の軸にぶつかってしまいます。これは上記の仮定と矛盾しているため、2番目の性質は成り立たざるを得ません。

 3番目の性質については、2番目の性質と同様に示せます。

おわりに

 この記事では、消費者の選好に関する仮定とその意味、および、無差別曲線や限界代替率といった概念とその性質を紹介しました。タンバ経済研究所では、これからも経済学に関する情報を発信していきます。今回の記事をここまで読んでくださった方は、ぜひコメントなどしてください!とても励みになります!