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【ミクロ経済学(7)】価格変動による消費者の満足度の変化 ~補償変分、等価変分~

概要

 財の価格が変動した時、消費者の満足度はどの程度変化したことになるのでしょうか?今回の記事ではこの問いについて論じます。

 なお、今回の記事では以下の記事の仮定を引き継ぎます。 tioe.jp また、以下の記事の知識を前提とします。 tioe.jp tioe.jp tioe.jp tioe.jp tioe.jp 今回の記事で分からないことがあれば、適宜上記の記事を参照してください。

目次

満足度の変化の所得換算

 財1の価格が p_1から p_1 + \Delta p_1に変化した時、消費者の満足度はどれだけ変化したことになるでしょうか?あまり深く考えなければ、間接効用関数の差を満足度の変化としてしまいそうです。すなわち、財2の価格を p_2、消費者の所得を I、間接効用関数を vとしたときに、

 v(p_1, p_2, I) - v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I)

を満足度の変化とみなすわけです。

 しかし、この考え方には問題があります。なぜなら、間接効用関数の正体は元を辿れば効用関数なのであり、この記事のとおり、効用関数は直接的には経済学的意味を持たないためです。したがって、上式は経済学的に意味を持たない量の差であり、これもまた、経済学的に意味のない量になります。実際、一つの選好に対して無数に効用関数が定義できたことを思い出すと、採用する効用関数によって、上式の値は変わってしまいます。そのような量を満足度の変化としても、扱いづらいだけです。

 一方で、具体的な方法はさておき、仮に満足度の変化を実質的な所得の変化に換算できるとすればどうでしょうか?所得であれば、確かに経済学的に意味のある量ですし、採用する効用関数によって値が変わりはしないはずです。

 そこで、今回の記事では満足度の変化を所得換算する方法として、補償変分等価変分という2つの考え方を紹介します。

補償変分

 補償変分とは、消費者が、変化後の価格で変化前の価格の時と同じ満足度の消費をするために必要な所得の変化量のことです。つまり、財の価格が上がったとき、元の満足度を維持するためにはどの程度の所得を補償されるべきかを表す量です。あるいは、財の価格が下がったとき、元の満足度を維持するためにはどの程度の所得を奪われても構わないかを表す量です。

 ここで満足度を効用水準と読み替えると、変化後の価格で変化前の価格と同じ効用水準の消費をするために必要な最小限の所得は、 e(p_1 + \Delta p_1, p_2, v(p_1, p_2, I))で与えられます。ただし eこの記事で紹介した支出関数です。補償変分 CVは、この値と実際の所得の差なので、

 CV = e(p_1 + \Delta p_1, p_2, v(p_1, p_2, I)) - I

となります。

等価変分

 等価変分とは、消費者が、変化前の価格で変化後の価格の時と同じ満足度の消費をするために必要な所得の変化量のことです。つまり、財の価格が上がるとき、その前にいくらの所得を奪われれば、価格上昇後と同じ満足度になるかを表す量です。あるいは、財の価格が下がるとき、その前にいくらの所得を補償されれば、価格下落後と同じ満足度になるかを表す量です。

 ここでも満足度を効用水準と読み替えると、変化前の価格で変化後の価格と同じ効用水準の消費をするために必要な最小限の所得は、 e(p_1, p_2, v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I))で与えられます。等価変分 EVは、この値と実際の所得の差なので、

 EV = I - e(p_1, p_2, v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I))

となります。

補償変分・等価変分と消費者余剰の変化の関係

 ここまで、価格変動による消費者の満足度の変化を所得換算した量として、補償変分 CVと等価変分 EVを紹介してきました。一方で、この記事では、価格変動による消費者の得の変化を貨幣換算した量として、消費者余剰の変化 \Delta CSを紹介しました。これらの量は似ているので、何らかの関係があってもおかしくありません。実際、以下で示すように、次のような不等式が成り立ちます。

 \min (CV, EV) \le \Delta CS \le \max (CV, EV)

ただし、等号は財1が中級財の時に成立します。

 上式を見ると、 \Delta CSは常に CV EVの間の値を取ることが分かります。このことから、実務では CV EVの代わりに、 \Delta CSをそれらの近似値として用いることが多いです。というのも、 CV EVは実務上の評価が困難なためです。これらの量は、前々章や前章の定義のとおり、支出関数や間接効用関数の形を知らなければ計算ができません。しかし、これらは実務的なデータから推計するのが難しいため、 CV EVは評価が困難なのです。一方で、 \Delta CSは実務上の評価が容易です。なぜなら、この記事で紹介した通り、需要関数が分かれば計算ができるからです。需要関数は価格と消費量のデータがあれば推計できるため、 \Delta CSは評価が容易なのです。

 以下、この章では、上式を示します。ただし、財1は上級財で、その価格が上昇した場合に絞って証明を進めます。その他の場合(財1が中級財・下級財の場合や、財1の価格が下落した場合)については、同様な議論で証明が可能です。

 まず、補償変分について計算を進めます。前々章で紹介した補償変分の定義式と I = e(p_1, p_2, v(p_1, p_2, I))を合わせると、

 CV = e(p_1 + \Delta p_1, p_2, v(p_1, p_2, I)) - e(p_1, p_2, v(p_1, p_2, I))

となります。ここで、財1の補償需要関数を h_1として、この記事で紹介したシェパードの補題

 \dfrac{\partial e}{\partial p_1} = h_1

を使うと、

 \displaystyle CV = \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1}h_1(\pi, p_2, v(p_1, p_2, I))d\pi

です。

 いま、 p_1 \lt \pi \lt p_1 + \Delta p_1において、 v(p_1, p_2, I) \gt v(\pi, p_2, I)です。これを下図を使って説明します。

間接効用関数の大小関係
上図のとおり、 v(p_1, p_2, I)は、価格 p_1, p_2と所得 Iに対応する予算線Aと、ある無差別曲線Bの接点における効用関数の値です。一方、 v(\pi, p_2, I)は、価格 \pi, p_2と所得 Iに対応する予算線C上のいずれかの点における効用関数の値です。この予算線Cは、 p_1 \lt \piなので、原点から見て予算線Aよりも手前にあります。したがって、無差別曲線Bよりも手前にあります。ですので、予算線C上の点は、この記事で紹介した通り、無差別曲線B上の点よりも好ましくありません。すると、この記事で紹介した効用関数の性質により、 v(p_1, p_2, I) \gt v(\pi, p_2, I)が成り立ちます。

 さらに、財1は上級財でしたから、 h_1(\pi, p_2, v(p_1, p_2, I)) \gt h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I))となります。これを下図を使って説明します。

補償需要関数の大小関係
上図のとおり、 h_1(\pi, p_2, v(p_1, p_2, I))は、効用水準が v(p_1, p_2, I)の無差別曲線Aと、価格 \pi, p_2に対応する傾きを持った直線Bの接点に対応しています。一方、 h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I))は、効用水準が v(\pi, p_2, I)の無差別曲線Cと、価格 \pi, p_2に対応する傾きを持った直線Dの接点に対応しています。この時、無差別曲線Cは、 v(p_1, p_2, I) \gt v(\pi, p_2, I)なので、原点から見て無差別曲線Aよりも手前にあります。したがって、直線Dは、原点から見て直線Bよりも手前にあります。ここで直線Bや直線Dを予算線とみなすと、BとDは平行なので、BからDへの変化は、所得の減少に対応します。上級財は、定義より、所得の減少に伴って消費量が減る財のことでしたから、 h_1(\pi, p_2, v(p_1, p_2, I)) \gt h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I))が成り立ちます。

 したがって、

 \displaystyle CV \gt \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1}h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I))d\pi

が成り立ちます。

 ここで、この記事で紹介した双対性を使うと、 h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I)) = x_1(\pi, p_2, I)なので、

 \displaystyle CV \gt \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1}x_1(\pi, p_2, I))d\pi = \Delta CS

となります。

 次に、等価変分について計算を進めます。補償変分と同様の議論により、

 \displaystyle \begin{align}
        EV &= e(p_1 + \Delta p_1, p_2, v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I)) - e(p_1, p_2, v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I))\\
             &= \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1} h_1(\pi, p_2, v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I))d\pi\\
             &\lt \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1} h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I))d\pi\\
             &= \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1} x_1(\pi, p_2, I)d\pi\\
             &= \Delta CS
    \end{align}

が成り立ちます。

 以上で証明が終わりました。

まとめ

 今回の記事では、価格変動による消費者の満足度の変化を所得換算した量として、補償変分と等価変分を紹介しました。さらに、補償変分、等価変分、消費者余剰の変化は不等式で関係づけられ、消費者余剰の変化はあとの2つの量の近似値として用いることができることも紹介しました。タンバ経済研究所では、これからも経済学に関する情報を発信していきます。この記事が良いなと思った方は、コメント、スター、ブックマーク、読者登録などしていただければ励みになります!