タンバ経済研究所

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ガソリンの暫定税率廃止は長期的には良策ではない【経済ニュース考察(2)】

 ガソリン減税法が11月28日に成立しました。これにより、12月31日にガソリンの暫定税率が廃止されます。暫定税率の廃止によって、ガソリン価格が下がることが期待されます。これは物価高に苦しむ多くの人にとって朗報でしょう。

 しかし、ガソリン価格の下落は社会を本当に幸福にするのでしょうか?私は、長期的にはそうではないと考えます。なぜなら、ガソリン価格の下落は大気汚染を悪化させるからです。

 ガソリンが安くなると、これまで以上にガソリンを燃料とする車が道路を走るようになります。すると、大気中に排出される排気ガスの量が増えます。この大気汚染により、社会は光化学スモッグ地球温暖化などの形で被害を受けます。

 光化学スモッグは、工場や車の排気ガスに含まれる窒素酸化物などが日光を受けて化学反応を起こし、有害物質に変化することにより生じます。この有害物質により、人体には目の痛み、喉の痛みなどの症状が出ます。重症化すると、呼吸困難や意識障害などにまで発展するおそれもあります。

 地球温暖化は、大気中の温室効果ガスが増加することによって生じます。排気ガスに含まれる二酸化炭素温室効果ガスの代表例です。温暖化が進むと、猛暑や豪雨などの異常気象が頻発するようになります。また、地球上の氷が溶けたり、海水が熱膨張したりすることによって、海水面が上昇します。これにより、海抜の低い陸地が水没してしまう可能性もあります。

 このように、ガソリン価格の下落は大きな社会的損害を生じさせかねないのです。そうは言っても、高いガソリン代に多くの人が頭を抱えているのも事実です。では、どのようにこの難局を乗り越えれば良いのでしょうか?

 私は、ガソリンを減税する代わりに、電気自動車への補助金を増額すれば良いと考えます。なぜなら、電気自動車は排気ガスを一切出さないからです。ガソリンが高い一方で、ガソリンが不要な電気自動車が安く買えるとなると、人々はこれまで以上に積極的に電気自動車に乗り換えるようになるでしょう。また、そうなると、ガソリンの需要が減少するので、ガソリンの価格が下落します。これは様々な事情で急には電気自動車に乗り換えられない人にとっても悪い話ではないはずです。結果として、人々は高いガソリン代に悩まされることはなくなります。また、大気汚染も改善されるでしょう。ガソリンが高いというピンチをチャンスに変えて、脱ガソリンを推進すれば良いわけです。

 このような政策は、ガソリンの減税に比べて国民のウケが良いとは思えません。車の乗り換えにはそれなりのコストがかかるからです。ですが、これからも私たちが綺麗な空気と暮らしやすい気候を享受し続けるために、あえてこの険しい道を進んでほしいと、私は思います。

 タンバ経済研究所では、これからも経済に関する情報を発信していきます。今回の記事をここまで読んでくださった方は、ぜひコメントなどしてください!とても励みになります!

【経済ニュース考察(1)】鈴木農水相のコメ政策は長期的には誰のためにもならないかもしれない

はじめに

 小泉前農水相のもとで進められたコメの増産政策は、鈴木農水相の就任に伴って撤回され、来年度はコメが減産される見込みです。コメの減産政策は果たして国民のためになるのでしょうか?私は、この政策は長期的には誰のためにもならないと考えます。以下ではこのことについて詳しく説明します。

目次

コメの減産がコメの価格と取引量に与える影響

 この章では、コメの減産政策がコメの価格と取引量に与える影響について論じます。結論から言うと、コメの減産政策は、コメの価格を上げ、コメの取引量を減らします。これは、コメの減産に伴うコメの需要曲線と供給曲線の変化を考えれば分かります。

 まず、需要曲線については、下図のように、特に変化がないでしょう。なぜなら、コメを減産したからといって消費者の所得や好みが変化するとは考えづらいためです。

コメの減産政策によって需要曲線は変化しない。

 次に、供給曲線については、下図のように、左にシフトするでしょう。なぜなら、価格によらず供給量が目標値程度になるよう政策により調整されるためです。

コメの減産政策によって供給曲線は左へシフトする。

 市場におけるコメの価格と取引量は、上図の需要曲線と供給曲線の交点で与えられます。そこで下図を見ると、減産政策によりコメの価格は上がり、取引量は減ることが分かります。

コメの減産政策によって市場におけるコメの価格は上がり、取引量は減る。

 鈴木農水相は、コメの量については事実上の減産方針を掲げつつ、価格については市場が決めるものと言って、あたかもコメの価格を作為的に上げる意図が無いような印象を与えています。しかし、実際には、上記のとおり、コメの供給とコメの価格は連動しているわけで、政府はコメの供給をコントロールすることによって、価格を作為的につり上げようとしていると言えます。

短期の分析

 前章では、政府はコメの減産政策を通してコメの価格をつり上げようとしていると説明しました。では、この価格のつり上げは誰のためになるのでしょうか?答えは、「少なくとも短期的には、生産者であるコメ農家のためになる」です。以下ではこのことについて説明します。

 多くの日本人にとって、コメは必需品に近いです。そのため、短期的に見れば、コメの価格が上昇しても需要量はあまり減らないでしょう。したがって、下図のように取引量もあまり減りません。

短期的には、コメの減産政策によって取引量はあまり減少しない。

 これは、生産者であるコメ農家にとって都合の良い話です。なぜなら、これまでとあまり変わらない量のコメが、これまで以上に高く売れることになり、彼らの収入は増えるからです。

 一方で、これは消費者にとって都合の悪い話です。なぜなら、これまでとあまり変わらない量のコメを、これまで以上に高い値段で買わなければならないからです。

 このように、少なくとも短期で見た場合、コメの減産政策は、消費者の犠牲の上に生産者を利するものであるといえます。鈴木農水相山形県を選挙区とする自民党議員であることを考慮すると、このような生産者側に立った政策を推進するのもある意味納得です。なぜなら、自民党と農協は緊密な関係にあり、さらに山形県は日本有数のコメの産地だからです。選挙で勝つためには生産者の側に立たざるを得ないのでしょう。

長期の分析

 前章では、コメの減産政策は、少なくとも短期的には、消費者の犠牲の上に生産者を利するものであると述べました。では、長期的にはどうでしょうか?実は長期的には生産者の利益にすらならない可能性もあるのです。以下ではこのことについて説明します。

 前章でも述べたように、多くの日本人にとって、コメは必需品に近いです。しかし、コメの価格が高い状態が長期にわたって続いた場合、消費者は、コメの代わりにパンや麺を求めるようになったり、輸入米を求めるようになったりするでしょう。したがって、長期的に見れば、コメの価格の上昇によってコメの需要量が大きく減ることになります。こうなると、下図のとおり、取引量も大きく減ってしまうことになります。

長期的には、コメの減産政策によって取引量は大きく減少し得る。

 これは、生産者にとって都合の悪い話です。なぜなら、コメの価格の上昇による収入増加の効果が、コメの取引量の減少による収入減少の効果に負けてしまうからです。短期的には生産者の収入が増えるものの、長期的には市場そのものが縮小し、生産者の収入が減ってしまうわけです。

おわりに

 今回の記事では、鈴木農水相のコメ政策の是非について論じました。短期と長期の分析の結果、この政策は、短期的には消費者の犠牲の上に生産者を利する一方、長期的には生産者のためにもならない可能性があることが分かりました。タンバ経済研究所では、これからも経済に関する情報を発信していきます。今回の記事をここまで読んでくださった方は、ぜひコメントなどしてください!とても励みになります!

【ミクロ経済学(12)】完全競争的な生産経済の競争均衡におけるパレート効率性

はじめに

 完全競争的な生産経済では、競争均衡においてパレート効率性が成り立ちます。今回の記事では私的所有経済というモデルを使って、このことを示します。ぜひ最後まで楽しんで読んでくださいね!

 なお、完全競争、競争均衡、パレート効率性という言葉になじみのない方は、この記事を参照してください。また、今回の記事より先に、この記事を読んだ方が、今回の記事を理解しやすいかもしれません。

目次

財についての仮定

 今回の記事では、この記事と同様の財についての仮定をおきます。つまり、この世の中には2種類の分割可能財しかないと仮定します。

私的所有経済

 私的所有経済とは、生産者(=企業)が消費者(=株主)に完全に所有され、生産者の利潤が消費者に全て分配されるような経済を指します。いま、この経済において、 I人の消費者と J人の生産者がいるとします。また、消費者 i = 1, 2, \cdots, Iが持つ生産者 j = 1, 2, \cdots, Jの所有権の割合を \theta_{ij}とし、生産者 jの利潤を \pi_jとします。この時、生産者は消費者に完全に所有されているので、

 \displaystyle \sum_{i=1}^I \theta_{ij} = 1

です。また、各生産者から消費者 iに分配される利潤の合計は

 \displaystyle \sum_{j=1}^J \theta_{ij}\pi_j

です。

生産者の定式化

 今回の記事では、生産者 jの生産活動を、 y_j = (y_{j1}, y_{j2})で表すこととします。ここで、 y_{j1}は、その値が正の時は財1の生産量、負の時は投入量を意味します。同じく、 y_{j2}は、その値が正の時は財2の生産量、負の時は投入量を意味します。常にどちらか一方が生産財で、他方が投入財となるので、 y_{j1} y_{j2}が同時に正になったり負になったりすることはありません。

 さて、生産者 jが実現できる y_jの集合は、 y_{j1}y_{j2}平面で曲線を成すはずです。この曲線の式は、

 T_j(y_j) = 0

のような形で表せます。この T_j変形関数といいます。また、上式で表される曲線のことを変形曲線といいます。変形曲線の例を下図に示します。

変形曲線
上図において、点 y_j^\astでは財1が投入され、財2が生産されています。一方、点 y_j^\primeでは財2が投入され、財1が生産されています。このような逆生産は無くても良いですが、より一般性を持たせるために、ここでは図示しました。また、財の投入がない時は、財の生産もないため、変形曲線は原点を通ります。

 ところで、完全競争市場において、生産者 jは財1、財2の価格 p = (p_1, p_2)を所与のものとして受け入れ、利潤を最大化しようとします。したがって、財1、財2の生産量(あるいは投入量)は、 T_j(y_j) = 0のもとでの利潤 p \cdot y_jの最大化問題

 \displaystyle \max_{y_j} p \cdot y_j

の解として求めることができます。ここで、下図のように p \cdot y_jが一定の直線を複数引くと、直線が変形曲線と接するところで、 p \cdot y_jが最大になることが分かります。

変形曲線と利潤一定の直線が接するところで利潤は最大となる
したがって、利潤が最大となる点 y_jでは、

 \displaystyle MRT_j(y_j) = \frac{p_1}{p_2}

が成り立っています。ここで、 MRT_j(y_j)限界変形率といって、 y_jにおける変形曲線の局所的な傾きの絶対値です。ただし、今回の記事では、生産者の生産技術は収穫逓減であるとします。なぜなら、この記事で述べた通り、収穫一定や収穫逓増の場合は、利潤が最大化できずに無限に発散することがあるからです。

 このようにして求まった y_jを以下では y_j(p)と書くことにします。また、この時の最大化された利潤を

 \displaystyle \pi_j(p) = p \cdot y_j(p)

と表すことにします。

消費者の定式化

 この記事で扱った純粋交換経済では、消費者 iの所得は、財1、財2の初期保有量を e_i = (e_{i1}, e_{i2})とすると、 p \cdot e_iで表されました。私的所有経済では、ここに、各企業から分配される利潤も加わります。つまり、消費者 iの最終的な財1、財2の保有量を x_i = (x_{i1}, x_{i2})とすると、予算制約式は、

 \displaystyle p \cdot x_i \le p \cdot e_i + \sum_{j=1}^J \theta_{ij}\pi_j(p)

となります。

 完全競争市場において、消費者の最終的な財の保有量は、上記の予算制約式のもとでの効用最大化問題を解くことで求められます。効用最大化問題について詳しく知りたい方は、この記事を参照してください。このようにして求まった x_iを、以下では x_i(p)と書くことにします。

競争均衡

 私的所有経済で完全競争市場が成立しているとき、消費者 iと生産者 jは、財の価格 pに対して、需要 x_i(p)および供給 y_j(p)で反応します。競争均衡価格 p^\astにおいては、財の需給が一致するので、

 \displaystyle \sum_{i=1}^I x_i(p^\ast) = \sum_{i=1}^I e_i + \sum_{j=1}^J y_j(p^\ast)

が成り立ちます。

実現可能な資源配分とパレート効率性

 全ての x_i y_jの組 (x_1, \cdots, x_I, y_1, \cdots, y_J)資源配分といいます。資源配分が実現可能であるためには、次の二つの式を満たさなければなりません。

 \displaystyle \begin{gather}
        \sum_{i=1}^I x_i = \sum_{i=1}^I e_i + \sum_{j=1}^J y_j \\
        T_j(y_j) = 0 \,\,\, (j = 1, \cdots, J)
    \end{gather}

1番目の式は、財の需給が一致していることを意味します。2番目の式は y_jは生産者 jの生産技術の制約を受けることを意味します。

 そして、私的所有経済において、ある実現可能な資源配分がパレート効率的であるとは、誰の効用も犠牲にせず、誰かの効用を改善するような他の実現可能な資源配分が存在しないことを意味します。

完全競争的な私的所有経済の競争均衡におけるパレート効率性

 この章では、完全競争的な私的所有経済の競争均衡においてパレート効率性が成立することを証明します。証明の方針としては、背理法を用います。つまり、競争均衡においてパレート効率性が成り立たないと仮定したうえで、矛盾を導きます。

 さて、競争均衡における資源配分がパレート効率性を満たさないと仮定します。すると、誰の効用も犠牲にせず、誰かの効用を改善するような他の実現可能な資源配分が存在することになります。そのような資源配分を (x_1, \cdots, x_I, y_1, \cdots, y_J)とおくことにします。すると、この記事と同様の議論から、すべての i = 1, \cdots, Iについて、

 \displaystyle p^\ast \cdot x_i \ge p^\ast \cdot e_i + \sum_{j=1}^J \theta_{ij} \pi_{j}(p^\ast)

が成り立ちます。さらに、ある iについては、

 \displaystyle p^\ast \cdot x_i \gt p^\ast \cdot e_i + \sum_{j=1}^J \theta_{ij} \pi_{j}(p^\ast)

が成り立ちます。したがって

 \displaystyle \sum_{i = 1}^I p^\ast \cdot x_i \gt \sum_{i=1}^I p^\ast \cdot e_i + \sum_{i=1}^I \sum_{j=1}^J \theta_{ij} \pi_{j}(p^\ast)

です。ここで、 \sum_{i=1}^I \theta_{ij} = 1より、

 \displaystyle \sum_{i = 1}^I p^\ast \cdot x_i \gt \sum_{i=1}^I p^\ast \cdot e_i + \sum_{j=1}^J  \pi_{j}(p^\ast)

となります。また、 \pi_j(p^\ast)は最大化された利潤であることから、 \pi_j(p^\ast) \ge p^\ast \cdot y_jなので、

 \displaystyle \sum_{i = 1}^I p^\ast \cdot x_i \gt \sum_{i=1}^I p^\ast \cdot e_i + \sum_{j=1}^J  p^\ast \cdot y_j

より、

 \displaystyle p^\ast \cdot \sum_{i = 1}^I x_i \gt p^\ast \cdot \sum_{i=1}^I e_i + p^\ast \cdot \sum_{j=1}^J  y_j

となります。

 ところが、 (x_1, \cdots, x_I, y_1, \cdots, y_J)は実現可能な資源配分であるため、

 \displaystyle \sum_{i = 1}^I x_i = \sum_{i=1}^I e_i + \sum_{j=1}^J  y_j

が成り立つはずなので、

 \displaystyle p^\ast \cdot \sum_{i = 1}^I x_i = p^\ast \cdot \sum_{i=1}^I e_i + p^\ast \cdot \sum_{j=1}^J  y_j

とならなければなりません。これは矛盾です。したがって、競争均衡における資源配分はパレート効率的でなければなりません。

おわりに

 今回の記事では、生産経済の例として私的所有経済を取り上げ、競争均衡においてパレート効率性が成り立つことを示しました。タンバ経済研究所では、これからも経済学に関する情報を発信していきます。今回の記事をここまで読んでくださった方は、ぜひコメントなどしてください!とても励みになります!

【ミクロ経済学(11)】生産者の費用最小化とは? ~その定式化、および、利潤最大化との関係~

はじめに

 経済学において、生産者の費用最小化はどのように定式化されるのでしょうか?また、費用最小化はこの記事で紹介した利潤最大化とはどのような関係にあるのでしょうか?今回の記事を読めば、その概要を知ることができます。ぜひ最後まで楽しんで読んでくださいね!

 なお、今回の記事では、この記事の財についての仮定を引き継ぎます。

目次

費用最小化

 経済学では、投入財1、投入財2の価格 w = (w_1, w_2)が与えられたとき、生産量 yを達成するための最小の費用や、最小の費用を実現する投入財1、投入財2の投入量 x = (x_1, x_2)を考えることがあります。これを費用最小化問題といいます。

 後でみるように、費用最小化問題は、この記事で取り上げた利潤最大化問題の一部になっています。しかし、利潤最大化問題の場合と違い、費用最小化問題を考えるにあたっては、生産者は投入財に関してのみ価格受容的である必要があるだけで、生産財に関してはその必要はありません。したがって、生産財市場が完全競争的でない場合も、費用最小化問題を考えることはできるのです。

 この章では、そのような費用最小化問題について論じます。ただし、以下では議論を長期と短期に場合分けします。ここで、長期とは、生産者があらゆる投入財の量を変化させられるような状況のことです。また、短期とは、一部の投入財の量しか変化させられないような状況のことです。

長期

 この節では、長期の費用最小化問題について論じます。

 まず、費用最小化問題が利潤最大化問題の一部になっていることをみます。いま、生産財の価格を p、生産者の生産関数を f(x)とすると(「生産関数って何?」という方は、この記事を参照してください)、利潤最大化問題は、

 \displaystyle \begin{align}
        \max_{(x, y) \in Y}(py - w \cdot x) &=  \max_{y \ge 0} \left\{\max_{x_1 \ge 0, x_2 \ge 0, f(x) \ge y} (py - w \cdot x)\right\} \\
        &= \max_{y \ge 0} \left(py - \min_{x_1 \ge 0, x_2 \ge 0, f(x) \ge y} w \cdot x\right) \\
        &= \max_{y \ge 0} (py - C(w, y))
    \end{align}

のように式変形できます。ただし、

 \displaystyle C(w, y) = \min_{x_1 \ge 0, x_2 \ge 0, f(x) \ge y} w \cdot x

とおきました。この関数は、生産量 yを達成するための最小の費用であり、費用関数と呼ばれます。また、この最小値を与える x = x(w, y)を、条件付き要素需要関数といいます。定義より、

 C(w, y) = w \cdot x(w, y)

です。このように、利潤最大化問題の一部として、費用最小化問題が登場します。

 次に、費用最小化の条件式をみていきます。そのために、 f(x) \ge yを満たす xの集合の典型的な形状を、下図のとおり x_1x_2平面上に図示します。

等量曲線と等費用直線の接点が費用を最小化する
また、上図には w \cdot xが一定となる直線を複数引いています。これを、等費用直線といいます。図を見ると、等費用直線が、等量曲線 f(x) = yに接する場合に、費用が最小となることが分かります(「等量曲線って何?」という方は、この記事を参照してください)。したがって、

 \displaystyle \begin{gather}
        &f(x) = y, \\
        &MRTS(x) = \frac{w_1}{w_2}
    \end{gather}

が費用最小化の条件式となります(「 MRTSって何?」という方は、この記事を参照してください)。

短期

 この節では、短期の費用最小化問題について論じます。短期においては、生産者は一部の投入財の量しか変化させられません。仮に投入財1の量のみ変化させることができ、投入財2の量は \bar{x}_2から動かせないとします。

 このとき、長期の場合と同様に、費用最小化問題は、利潤最大化問題の一部として現れます。具体的には、

 \displaystyle \begin{align}
        &\max_{(x, y) \in Y, x_2 = \bar{x}_2}(py - w \cdot x) = \max_{y \ge 0} (py - C(w, \bar{x}_2, y)), \\
        &C(w, \bar{x}_2, y) = \min_{x_1 \ge 0, x_2 = \bar{x}_2, f(x) \ge y} w \cdot x
    \end{align}

というような形で現れます。ここで、 C(w, \bar{x}_2, y)短期費用関数といいます。また、この最小値を与える x = (x_1(w, \bar{x}_2, y), \bar{x}_2)短期条件付き要素需要関数といいます。定義より、

 C(w, \bar{x}_2, y) = w_1 x_1(w, \bar{x}_2, y) + w_2 \bar{x}_2

です。

 上記の最後の式を見ると、短期費用関数は、生産財の生産量 yに応じて変化する項と、 yに応じて変化しない項の和として表されることが分かります。前者を可変費用といい、後者を固定費用といいます。

平均費用と限界費用

 この章では、短期費用関数に関連する概念として、平均費用と限界費用を紹介します。

 前章の結果を思い出すと、短期費用関数 C(y)は、可変費用 VC(y)固定費用 FCを用いて、

 C(y) = VC(y) + FC

と表せるのでした。ただし、ここで w \bar{x}_2は定数であるとして表記を省略しました。

このとき、

 \displaystyle \begin{align}
        AC(y) &= \frac{C(y)}{y} \\
        &= \frac{VC(y)}{y} + \frac{FC}{y} \\
        &= AVC(y) + AFC(y)
    \end{align}

平均費用といいます。さらに、 AVC(y) = \frac{VC(y)}{y}平均可変費用 AFC(y) = \frac{FC}{y}平均固定費用といいます。 一方、

 MC(y) = C'(y) = VC'(y)

限界費用といいます。

 平均費用、平均可変費用限界費用の関係は、下図のようになります。

平均費用、平均可変費用限界費用の関係
まず、平均固定費用の分だけ、平均費用の方が、平均可変費用よりも上側にあります。そして、 yが大きくなるほど、平均固定費用が小さくなるので、平均費用と平均可変費用が近づきます。そして、平均費用や平均可変費用がU字型の底を持つ場合、限界費用はその底を通ります。これは平均費用や平均可変費用微分することで分かります。例えば、平均費用を微分すると、

 \displaystyle \begin{align}
        AC'(y) &= \frac{C'(y)}{y} - \frac{C(y)}{y^2} \\
        &= \frac{1}{y}(MC(y) - AC(y))
    \end{align}

となり、 AC'(y) = 0において、 MC(y) = AC(y)となります。平均可変費用についても同様です。

利潤最大化

 この章では、短期費用関数を用いて、完全競争市場における生産者の短期の利潤最大化について論じます。

 これまで見てきたように、短期の利潤最大化問題は、短期費用関数を用いて、

 \displaystyle \max_{y \ge 0} (py - C(y))

という形で表されます。 これを解くことにより、

 y = S(p)

なる関係式が求められます。これを供給関数といいます。

 いま、平均費用、平均可変費用限界費用が下図のようになっているとします。

平均費用、平均可変費用限界費用
すると、

 py - C(y) = y(p - AVC(y)) - FC

なので、生産財の価格 pが平均可変費用の底よりも低い場合、 y \gt 0ならどれだけ生産財の生産を頑張っても利潤が y=0の場合を下回ります。したがって、このとき、

 y = S(p) = 0

となります。このことから、平均可変費用の底を操業停止点といいます。

 一方、 pが平均可変費用の底以上の場合、適切な y \gt 0によって利潤が最大化されます。その条件は、利潤の yによる微分が0というものです。つまり、

 p = MC(y)

です。ただし、

 py - C(y) = y(p - AC(y))

なので、 pが平均費用の底より低い場合、赤字は出てしまいます。このことから、平均費用の底を損益分岐点といいます。

おわりに

 今回の記事では、費用最小化問題について論じました。タンバ経済研究所では、これからも経済学に関する情報を発信していきます。今回の記事をここまで読んでくださった方は、ぜひコメントなどしてください!とても励みになります!

【ミクロ経済学(10)】生産者理論ことはじめ ~生産技術と利潤最大化~

はじめに

 経済学において、生産者はどのようにモデル化されるのでしょうか?今回の記事を読めば、その概要を知ることができます。具体的には、今回の記事では、生産者の生産技術を特徴づける概念である、生産可能集合と生産関数を紹介します。また、生産技術の分類についても紹介します。さらに、生産者の利潤最大化についても論じます。ぜひ最後まで楽しんで読んでくださいね!

目次

財についての仮定

 この章では、生産者が投入する財(投入財)と、生産する財(生産財)についての、今回の記事における仮定を述べます。

 まず、投入財について、財の種類は2種類とします。それぞれを投入財1、投入財2ということにします。次に、生産財について、財の種類は1種類とします。そして、投入財、生産財ともに、分割可能財であるとします。「分割可能財って何?」という方は、この記事を参照してください。

生産技術、生産可能性集合、生産関数

 この章では、生産者の生産技術を特徴づける概念と、生産技術の分類を紹介します。

 いま、生産者が、投入財1と投入財2を x = (x_1, x_2)だけ投入したとします。このときに生産される生産財の量を yとすると、生産者の生産性が最低の場合、 y = 0です。一方で、生産性が最高の場合、 y = f(x)となるとします。すると、生産者が実現可能な x yの組み合わせの集合は、

 \{ (x, y) \mid x_1 \ge 0, x_2 \ge 0, 0 \le y \le f(x) \}

と書けます。これを生産可能性集合といいます。そして、生産可能性集合の境界を与える関数 f(x)生産関数といいます。投入財を投入しない時、生産財は生産されないはずなので、生産関数は、

 f(0) = 0

という性質を持ちます。

 生産関数の性質によって、生産技術は次の3つに分類されます。

  • 収穫逓減: 任意の実数 t > 1に対して、 f(tx) \lt tf(x)の場合
  • 収穫一定: 任意の実数 t > 1に対して、 f(tx) = tf(x)の場合
  • 収穫逓増: 任意の実数 t > 1に対して、 f(tx) \gt tf(x)の場合

つまり、投入財の規模の変化に伴う生産財の規模の変化の仕方によって生産技術を分類するわけです。

等量曲線、技術的限界代替率、限界生産力

 この章では、生産関数にまつわるいくつかの概念を紹介します。

 生産関数 f(x)が一定となる点の集まりは、 x_1x_2平面上で曲線を成します。これを等量曲線といいます。

 等量曲線の傾きの絶対値は、生産財の生産量を一定に保つとして、投入財1をわずかに増やしたら、投入財2をどれだけの比率で減らせるかを表します。これを投入財2の投入財1に対する技術的限界代替率といいます。記号では MRTSと表すことが多いです。

 技術的限界代替率は、この記事で紹介した限界代替率の効用関数による表現の導出と同様の議論により、生産関数を使って次のように表現できます。

 MRTS(x) = \dfrac{\frac{\partial f(x)}{\partial x_1}}{\frac{\partial f(x)}{\partial x_2}}

 この時、 \frac{\partial f(x)}{\partial x_1}を投入財1の限界生産力といい、 MP_1(x)などと表します。同様に、 \frac{\partial f(x)}{\partial x_2}を投入財2の限界生産力といい、 MP_2(x)などと表します。限界生産力を使うと、技術的限界代替率は、

 MRTS(x) = \dfrac{MP_1(x)}{MP_2(x)}

と表せます。

利潤最大化

 完全競争市場において、生産者は投入財の価格 w=(w_1, w_2)生産財の価格 pを受け入れるしかありません(「完全競争市場って何?」という方は、この記事を参照してください)。そして、その上で利潤 py - w \cdot xを最大化しようとするでしょう。この章ではこの利潤最大化について論じます。ただし、以下では議論を長期と短期に分けて進めます。ここで、長期とは、生産者があらゆる投入財の量を変化させられるような状況のことです。また、短期とは、一部の投入財の量しか変化させられないような状況のことです。

長期

 まずは長期から考えましょう。長期においては、生産者はすべての投入財の量を変化させることができます。したがって、生産可能性集合を Yとおくと、利潤最大化問題は、

 \displaystyle \begin{align}
        \max_{(x, y) \in Y}(py - w \cdot x) &= \max_{x_1 \ge 0, x_2 \ge 0} \left\{\max_{0 \le y \le f(x)} (py - w \cdot x)\right\} \\
        &= \max_{x_1 \ge 0, x_2 \ge 0} (pf(x) - w \cdot x)
    \end{align}

を考えればよいことになります。つまり、 x_1 \ge 0,  x_2 \ge 0のもとで

 \pi(x) = pf(x) - w \cdot x

の最大化を考えるわけです。 ここで、 \pi(0) = 0ですから、 \pi(x)の最大値は少なくとも 0以上です。

一般的には、 x = 0が最大値を与える唯一の点の場合もあり得ます。この場合、生産者は何もしないのが最適ということになります。以下では、そうでない場合、すなわち、少なくとも一つの x = x^\ast \ne 0において、最大値を取る場合を考えます。ただし、生産技術が収穫逓増、収穫一定、収穫逓減の場合に分けて論じます。

収穫逓増

 収穫逓増の場合、利潤は最大値を取らず、無限に大きくなることが次のようにして分かります。

 いま、仮に x = x^\ast \ne 0において \pi(x) 0以上の最大値を取ったとします。すると、任意の実数 t \gt 1について、

 \displaystyle \begin{align}
        \pi(tx^\ast) &= pf(tx^\ast) - w \cdot tx^\ast \\
        &\gt ptf(x^\ast) - w \cdot tx^\ast \\
        &= t(pf(x^\ast) - w \cdot x^\ast) \\
        &\ge pf(x^\ast) - w \cdot x^\ast \\
        &= \pi(x^\ast)
    \end{align}

となります。これは、 \pi(x^\ast)が最大値であることに矛盾します。よって、生産技術が収穫逓増の時は \pi(x)は最大値を取らず、無限に大きくなります。

 これが意味するところは次のとおりです。生産技術が収穫逓増である時、そのような生産者は投入財の規模を大きくすることによってどんどん利潤を大きくすることができます。やがてそのような生産者は市場の支配力を持ちます。そうなると、もはや完全競争市場の仮定が成り立ちません。つまり、完全競争市場と収穫逓増は整合しないのです。ですから、収穫逓増の場合に完全競争市場を仮定して利潤最大化を考えることは適切ではありません。

収穫一定

 収穫一定の場合は、さらなる場合分けが必要です。

 まず、最大値を与える x = x^\ast \ne 0について、 \pi(x^\ast) = 0の場合、

 \displaystyle \begin{align}
        \pi(tx^\ast) &= pf(tx^\ast) - w \cdot tx^\ast \\
        &= ptf(x^\ast) - w \cdot tx^\ast \\
        &= t(pf(x^\ast) - w \cdot x^\ast) \\
        &= 0 \\
        &= \pi(x^\ast)
    \end{align}

より、最大値を与える xは無数にあります。ただし、そのような xにおいて利潤は常に 0です。

 次に、 \pi(x^\ast) \gt 0の場合、

 \displaystyle \begin{align}
        \pi(tx^\ast) &= pf(tx^\ast) - w \cdot tx^\ast \\
        &= ptf(x^\ast) - w \cdot tx^\ast \\
        &= t(pf(x^\ast) - w \cdot x^\ast) \\
        &\gt pf(x^\ast) - w \cdot x^\ast \\
        &= \pi(x^\ast)
    \end{align}

より、矛盾が生じるので、収穫逓増の場合と同様に、利潤は無限に大きくなります。したがって、このような場合に完全競争市場を仮定して利潤最大化を考えることは適切ではありません。

収穫逓減

 収穫逓減の場合は、通常、収穫逓増、収穫一定のような特殊な状況(最大値がない、または、最大値を与える xが無数に存在する)を考える必要はありません。

 よって、利潤最大化のための条件は、 \pi(x) x_1,  x_2偏微分した値が 0になるというものになります。すなわち、

 \displaystyle \begin{align}
        pMP_1(x) &= w_1,\\
        pMP_2(x) &= w_2
    \end{align}

です。

 これを解くことによって得られる xの値 x(p, w)要素需要関数 yの値 y(p, w) = f(x(p, w))供給関数といいます。

短期

 次に短期の場合を考えましょう。短期においては、生産者は一部の投入財の量しか変化させられません。仮に投入財1の量のみ変化させることができ、投入財2の量は \bar{x}_2から動かせないとします。

 このとき、利潤最大化問題は、

 pf(x_1, \bar{x}_2) - w_1x_1 -w_2\bar{x}_2

の最大化を考えればよいことになります。 よってその条件は、上式を x_1偏微分したものが 0になるというものになります。つまり、

 pMP(x_1, \bar{x}_2) = w_1

です。

 これを解くことにより得られる x_1 = x_1(w, \bar{x}_2)短期要素需要関数といいます。また、その時の y = y(p, w, \bar{x}_2) = f(x_1(w, \bar{x}_2), \bar{x}_2)短期供給関数といいます。

おわりに

 この記事では、生産者の生産技術を特徴づける概念として、生産可能性集合と生産関数を紹介しました。また、生産関数が持つ性質による生産技術の分類(収穫逓減、収穫一定、収穫逓増)も紹介しました。さらに、完全競争市場を念頭に、生産者の利潤最大化について論じました。タンバ経済研究所では、これからも経済学に関する情報を発信していきます。今回の記事をここまで読んでくださった方は、ぜひコメントなどしてください!とても励みになります!

【ミクロ経済学(9)】完全競争的な純粋交換経済の競争均衡におけるパレート効率性

概要

 前回の記事で、完全競争市場では競争均衡においてパレート効率性が成り立つということを紹介しました。しかし、その証明にまでは言及しませんでした。そこで、今回の記事では、純粋交換経済というシンプルな経済を題材として、競争均衡におけるパレート効率性の成立を証明します。

目次

純粋交換経済とは

 純粋交換経済とは、生産活動が存在せず、消費者がもともと持っている財を互いに交換するだけの経済のことです。このような経済は現実には存在しません。しかし、生産活動がない分、状況がシンプルになるので、市場分析のスタート地点としてうってつけです。そこで、今回の記事では純粋交換経済を扱うことにします。

純粋交換経済における予算制約式

 この章では、後の議論のために、純粋交換経済における消費者の予算制約式を導出します。なお、以下本記事では、この記事で財について置いた仮定を引き継ぎます。すなわち、この世には2つの分割可能財しかないという仮定を置きます。

 さて、いま、消費者は、交換前に財1、財2を e = (e_1, e_2)だけ持っていたとします。ここから、財1、財2を、価格 p = (p_1, p_2) \Delta = (\Delta_1, \Delta_2)だけ売り、 \delta = (\delta_1, \delta_2)だけ買ったとします。その結果、交換後に財1、財2を x = (x_1, x_2)だけ持っている状態になったとします。

 この時、支出 p \cdot \deltaは収入 p \cdot \Deltaの範囲内に収まっていなければならないので、 p \cdot \delta \le p \cdot \Deltaです。したがって、

 p \cdot (\delta - \Delta) \le 0

となります。この式の両辺に p \cdot eを足すと、定義より e - \Delta + \delta = xなので、

 p \cdot x \le p \cdot e

が成り立ちます。これが予算制約式です。

完全競争的な純粋交換経済における競争均衡

 この章では、純粋交換経済で完全競争市場が実現しているとき、その競争均衡において競争均衡価格と競争均衡配分がどのような性質を持つのかを論じます。

 まず、財1、財2の競争均衡価格を p^\ast = (p^\ast_1, p^\ast_2)とします。次に、この純粋交換経済には n人の消費者が参加しているとします。そして、消費者 i = 1, 2, \cdots , nが交換前に持っていた財1、財2の量を e_i = (e_{i,1}, e_{i,2})、交換後に持っている財1、財2の量を x_i = (x_{i, 1}, x_{i, 2})とします。

 さて、競争均衡の定義から、競争均衡において、各消費者は最適な行動をとっています。すなわち、任意の消費者 iは、予算制約 p^\ast \cdot x_i \le p^\ast \cdot e_i の下で効用を最大化するように x_iを決めています。そのような x_iは、この記事での議論を思い出すと、予算線

 p^\ast \cdot x_i = p^\ast \cdot e_i

と、ある無差別曲線の接点になっているのでした。この接点を x^\ast_iとします。これが競争均衡配分です。

 また、競争均衡では市場における需要と供給が一致しています。すなわち、

 \displaystyle \sum_{i=1}^n x^\ast_i = \sum_{i=1}^n e_i

です。

 以上が競争均衡において競争均衡価格 p^\astと競争均衡配分 x^\ast_iが持つ性質です。

完全競争的な純粋交換経済におけるパレート効率性

 この章では、完全競争市場が実現している純粋交換経済における競争均衡がパレート効率的であることを証明します。証明の方針としては、背理法を用います。つまり、競争均衡がパレート効率的ではないと仮定して、何らかの矛盾を導きます。

 さて、もし仮に競争均衡配分 x^\ast_iがパレート効率的でなかったとします。すると、誰の効用も損なうことなく、誰かの効用を改善することができるということになります(「効用って何?」という方はこの記事を参照してください)。この改善後の配分を、 x^\ast_i + \Delta x_iとします。

 改善後の配分では誰の効用も損なわれないのですから、すべての i = 1, 2, \cdots , nについて、 x^\ast_i + \Delta x_i \succsim_i x^\ast_iです。ここで、消費者 iの選好を \succsim_iなどで表すこととします(「選好って何?」という方はこの記事を参照してください)。さて、 x^\ast_iは、下図のように、予算線 p \cdot x_i = p \cdot e_iと、ある無差別曲線Aの接点なのでした。

競争均衡配分は予算線とある無差別曲線Aの接点になる
このとき、 x^\ast_iと同等に好ましい点は、無差別曲線A上にあります。また、 x^\ast_iよりも好ましい点は、原点から見て無差別曲線Aより奥にあります(このあたりの議論が良く分からない方はこの記事を参照してください)。したがって、 x^\ast_i + \Delta x_iは、少なくとも予算線 p \cdot x_i = p \cdot e_i上か、原点から見てそれよりも奥にあります。よって、

 p^\ast \cdot (x^\ast_i + \Delta x_i) \ge p^\ast \cdot e_i

です。さらに、 p^\ast \cdot x^\ast_i = p^\ast \cdot e_iなので、

 p^\ast \cdot \Delta x_i \ge 0

です。

 また、改善後の配分では誰かの効用は改善されているのですから、少なくとも1つの iについて、 x^\ast_i + \Delta x_i \succ_i x^\ast_iなので、上と同様の議論から、

 p^\ast \cdot \Delta x_i \gt 0

となります。

 以上のことから、

 \displaystyle \sum_{i=1}^n p^\ast \cdot \Delta x_i = p^\ast \cdot \sum_{i=1}^n \Delta x_i \gt 0 \tag{1}

が成り立ちます。

 一方、改善後の配分が実現可能であるためには、改善後も需給は一致していなければなりません。つまり、

 \displaystyle \sum_{i=1}^{n} (x^\ast_i + \Delta x_i) = \sum_{i=1}^{n} e_i

です。この式と、 \sum_{i=1}^n x^\ast_i = \sum_{i=1}^n e_iより、

 \displaystyle \sum_{i=1}^{n} \Delta x_i = 0 \tag{2}

が成り立ちます。

 ところが、式(1)と式(2)を合わせると、

 0 \gt 0

となってしまいます。これは明らかな矛盾です。したがって、競争均衡配分は、パレート効率的だということが分かりました。

まとめ

 今回の記事では、純粋交換経済を例にとって、完全競争市場の競争均衡ではパレート効率性が成立することを示しました。タンバ経済研究所では、これからも経済学に関する情報を発信していきます。この記事が良いなと思った方は、コメント、スター、ブックマーク、読者登録などしていただければ励みになります!

【ミクロ経済学(8)】市場分析のスタート地点! ~完全競争市場、競争均衡、パレート効率性~

概要

今回の記事では、経済学において市場分析のスタート地点として扱われる、完全競争市場を取り上げます。また、それにまつわる概念として、競争均衡やパレート効率性についても紹介します。

目次

完全競争市場

 完全競争市場とは、次のような条件を満たす理想的な市場のことです。

  • 多数の売り手と買い手が存在する:
    非常に多くの売り手と買い手が存在するため、各売り手や買い手は財の価格を操作することができず、市場価格を受け入れるしかない
  • 取引される財は同質である:
    どの売り手が売っている財も質が同じで、買い手にとって差がない
  • 売り手は自由に市場に参入・退出できる:
    利益が出れば売り手は自由に市場に参入でき、損失が出れば簡単に退出できる
  • 売り手も買い手も完全な情報を持っている:
    売り手も買い手も価格や商品の質などの市場に関する情報を完全に知っている
  • 取引に伴うコストが発生しない:
    輸送費、交渉費などの売買に伴う費用が発生しない

このような条件を満たす市場は、現実には存在しません。ただし、農産物市場、株式市場、為替市場が比較的、完全競争市場に近いとされています。

 では、なぜ、現実に存在しないにも関わらず、経済学では完全競争市場を考えるのでしょうか?それは、完全競争市場ではない、より現実的な市場を分析する際の土台となるからです。完全競争市場はとても単純な市場なので、分析が比較的容易です。そのため、より現実的で複雑な市場を分析するための足掛かりになるのです。また、以下で述べるように、完全競争市場では、需要と供給が一致する状態において、ある意味での効率性が成り立ちます。この効率性が成り立った状態を理想の状態として、より現実的で複雑な市場がどれほどこの状態からずれるのかを知ることによって、その市場の特徴や、そのずれを是正するための政策などを論じることができるのです。

競争均衡

 競争均衡とは、完全競争市場において、次の条件が満たされる状態のことです。

  • すべての売り手と買い手が、財の市場価格の下で、最適な行動をとる
  • 市場における需要と供給が一致している

ここで、最適な行動とは、売り手は市場価格の下で利潤を最大化し、買い手は市場価格の下で効用を最大化するということです。

 競争均衡は完全競争市場が長期的に到達する状態ととらえることができます。というのも、需要が供給より多い場合、財の市場価格は上がり、需要が減り、供給が増える一方、需要が供給より少ない場合、財の市場価格は下がり、需要が増え、供給は減るというような価格調整メカニズムが働くだろうからです。このような価格調整が繰り返された結果、需要と供給が一致するところで、価格変動が落ち着くと考えられます。

 なお、競争均衡における財の価格を競争均衡価格といい、その時の財の配分を競争均衡配分といいます。

パレート効率性

 前々章で、完全競争市場では、競争均衡においてある意味での効率性が成り立つと言いました。この効率性は、パレート効率性と呼ばれるものです。パレート効率性とは、誰の効用も損なうことなく、誰かの効用を改善することができないという性質のことです。

 完全競争市場の競争均衡がパレート効率的であることは、かなり一般的な場合において、厳密に証明されています。これを厚生経済学の第一基本定理といいます。

 注意したいのが、パレート効率性が成り立っている状態は、必ずしも公平性が成り立っている状態ではないということです。例えば、AさんとBさんがケーキを分け合うとしましょう。このとき、Aさんがケーキを全部取ってしまった状態は、パレート効率的です。なぜなら、Aさんの効用を改善する余地はなく、一方でBさんの効用を上げようとすると、Aさんからケーキを奪うことになるため、Aさんの効用が損なわれるからです。

まとめ

 今回の記事では、市場分析のスタート地点としての完全競争市場を紹介しました。また、完全競争市場は長期的には競争均衡に落ち着くことや、競争均衡においてはパレート効率性が成り立っているということにも触れました。タンバ経済研究所では、これからも経済学に関する情報を発信していきます。この記事が良いなと思った方は、コメント、スター、ブックマーク、読者登録などしていただければ励みになります!