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【ミクロ経済学(4)】価格変動による消費行動の変化 ~代替効果、所得効果、スルツキー方程式~

概要

 前回の記事では、与えられた財の価格のもとで、消費者がどのように財の消費量を決めるのかを論じました。では、財の価格が変化した時、消費量はどのように変化するのでしょうか?今回の記事ではこの問いについて論じます。

 今回の記事は、以下の3つの記事の仮定や知識を前提としています。 tioe.jp tioe.jp tioe.jp 今回の記事を読んでいて分からないことがあれば、適宜上記の記事を参照してください。

目次

代替効果と所得効果

 いま、財1の価格が p_1から p_1 + \Delta p_1に変化したとしましょう。この時の財1, 2の消費量の変化は代替効果によるものと所得効果によるものに分解できます。代替効果とは、財1の財2に対する相対価格が変化することにより、財1, 2の消費量が変化する効果のことです。所得効果とは、財1の価格変動で消費者の財1, 2全体の購買力、つまり実質所得が変化することにより、財1, 2の消費量が変化する効果のことです。このように、価格変動の影響を代替効果と所得効果に分けて考えることをスルツキー分解といいます。

 この代替効果と所得効果を図で説明します。なお、以下この章では \Delta p_1 \gt 0として話を進めますが、 \Delta p_1 \lt 0の場合も同様に議論が可能です。

代替効果と所得効果
上図で、価格変化前の財の消費量を x = (x_1, x_2)とし、価格変化後の財の消費量を x' = (x'_1, x'_2)とします。また、財2の価格を p_2、消費者の所得を Iとします。すると、 xは、財1軸との切片が I/p_1で財2軸との切片が I/p_2の予算線と、ある無差別曲線との接点として描けます。一方、 x'は、財1軸との切片が I/(p_1 + \Delta p_1)で財2軸との切片が I/p_2の予算線と、ある無差別曲線との接点として描けます。この状況のもと、価格変動後の予算線に並行で、 xを通る無差別曲線に接する補助線を引き、その接点を \hat{x} = (\hat{x}_1, \hat{x}_2)とします。この点 \hat{x}は、変動後の財の価格において、 xと同じ効用を与える点です。価格変動前と同じ効用を与えるのですから、実質所得の変化がない、すなわち、所得効果がない場合の消費量を表していると言えます。すなわち、 \hat{x}は代替効果だけがある場合の消費量です。したがって、代替効果は \hat{x} - xと表せます。そして、消費量の変化の残りの部分が所得効果なのですから、これは、 x' - \hat{x}と表せます。

 代替効果と所得効果のうち、代替効果は、それぞれの財に対して及ぼす影響の方向が決まっています。具体的には、 \hat{x}_1 \lt x_1で、 \hat{x}_2 \gt x_2です。つまり、財1の価格上昇による代替効果は、財1の消費量を押し下げ、財2の消費量を押し上げようとします。これは、無差別曲線が右肩下がりで、かつ、限界代替率が逓減することから明らかです。一方で、所得効果が各財に対して及ぼす影響の方向は財によって変わってきます。

スルツキー方程式

 前の章では、価格の変化 \Delta p_1がある程度の大きさを持つ場合について考えました。では、これを無限に小さくしたときに、各財の消費量の変化率はどのようになるのでしょうか?この章ではこの問いを考えます。

 まず、この記事で紹介した双対性

 h(p, u) = x(p, e(p, u))

から議論を始めます。ここで p = (p_1, p_2)は財1, 2の価格、 uは効用水準、 h(p, u) = (h_1(p, u), h_2(p, u))は補償需要関数、 e(p, u)は支出関数、 x(p ,I) = (x_1(p, u), x_2(p, u))は需要関数です。

 この双対性の式を p_1偏微分すると、

 \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, u) = \dfrac{\partial x}{\partial p}(p, e(p, u)) + \dfrac{\partial x}{\partial I}(p, e(p, u))\dfrac{\partial e}{\partial p_1}(p, u)

となります。

 定義より、 e(p, u) = p_1 h_1(p, u) + p_2 h_2(p, u)なので、


        \begin{align}
            \dfrac{\partial e}{\partial p_1}(p, u) &= h_1(p, u) + p_1 \dfrac{\partial h_1}{\partial p_1}(p, u) + p_2 \dfrac{\partial h_2}{\partial p_1}(p, u) \\
                &= h_1(p, u) + p \cdot \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, u)
        \end{align}

です。ここで、 \partial h(p, u)/\partial p_1に注目しましょう。 p_1だけを変化させた時、 h(p, u)は無差別曲線上を動きます。したがって、 \partial h(p, u)/\partial p_1は、点 h(p, u)における接線に平行になります。この接線は、財の価格が pの時の支出線なので、ベクトル (p_2, -p_1)に平行です。つまり、

 \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, u) = \lambda \begin{pmatrix} p_2 \\ -p_1 \end{pmatrix}

を満たす \lambdaが存在します。すると、これは pに直交するので、

 \dfrac{\partial e}{\partial p_1}(p, u) = h_1(p, u)

であることが分かります。 この式を、シェパードの補題といいます。

 この補題により、

 \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, u) = \dfrac{\partial x}{\partial p}(p, e(p, u)) + \dfrac{\partial x}{\partial I}(p, e(p, u))h_1(p, u)

となりますから、

 \dfrac{\partial x}{\partial p}(p, e(p, u)) = \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, u) - \dfrac{\partial x}{\partial I}(p, e(p, u))h_1(p, u)

です。 ここで、効用水準 uに間接需要関数 v(p, I)を代入すると、 e(p, v(p, I)) = Iなので、

 \dfrac{\partial x}{\partial p}(p, I) = \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, v(p, I)) - \dfrac{\partial x}{\partial I}(p, I)h_1(p, v(p, I))

が成り立ちます。これをスルツキー方程式といいます。式の形状から、明らかに、右辺第第1項が代替効果、第2項が所得効果を表しています。

まとめ

 今回の記事では、財の価格の変化による消費行動の変化を論じました。具体的には、価格変動による消費量の変化は、代替効果によるものと所得効果によるものに分解できることを示しました。さらに、この分解の微分による表現として、スルツキー方程式を導出しました。また、その過程で、シェパードの補題という支出関数と補償需要関数の関係式を導出しました。代替効果、所得効果、シェパードの補題は、これからの議論にも用いるので、ぜひ覚えておいてください!