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【ミクロ経済学(7)】価格変動による消費者の満足度の変化 ~補償変分、等価変分~

概要

 財の価格が変動した時、消費者の満足度はどの程度変化したことになるのでしょうか?今回の記事ではこの問いについて論じます。

 なお、今回の記事では以下の記事の仮定を引き継ぎます。 tioe.jp また、以下の記事の知識を前提とします。 tioe.jp tioe.jp tioe.jp tioe.jp tioe.jp 今回の記事で分からないことがあれば、適宜上記の記事を参照してください。

目次

満足度の変化の所得換算

 財1の価格が p_1から p_1 + \Delta p_1に変化した時、消費者の満足度はどれだけ変化したことになるでしょうか?あまり深く考えなければ、間接効用関数の差を満足度の変化としてしまいそうです。すなわち、財2の価格を p_2、消費者の所得を I、間接効用関数を vとしたときに、

 v(p_1, p_2, I) - v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I)

を満足度の変化とみなすわけです。

 しかし、この考え方には問題があります。なぜなら、間接効用関数の正体は元を辿れば効用関数なのであり、この記事のとおり、効用関数は直接的には経済学的意味を持たないためです。したがって、上式は経済学的に意味を持たない量の差であり、これもまた、経済学的に意味のない量になります。実際、一つの選好に対して無数に効用関数が定義できたことを思い出すと、採用する効用関数によって、上式の値は変わってしまいます。そのような量を満足度の変化としても、扱いづらいだけです。

 一方で、具体的な方法はさておき、仮に満足度の変化を実質的な所得の変化に換算できるとすればどうでしょうか?所得であれば、確かに経済学的に意味のある量ですし、採用する効用関数によって値が変わりはしないはずです。

 そこで、今回の記事では満足度の変化を所得換算する方法として、補償変分等価変分という2つの考え方を紹介します。

補償変分

 補償変分とは、消費者が、変化後の価格で変化前の価格の時と同じ満足度の消費をするために必要な所得の変化量のことです。つまり、財の価格が上がったとき、元の満足度を維持するためにはどの程度の所得を補償されるべきかを表す量です。あるいは、財の価格が下がったとき、元の満足度を維持するためにはどの程度の所得を奪われても構わないかを表す量です。

 ここで満足度を効用水準と読み替えると、変化後の価格で変化前の価格と同じ効用水準の消費をするために必要な最小限の所得は、 e(p_1 + \Delta p_1, p_2, v(p_1, p_2, I))で与えられます。ただし eこの記事で紹介した支出関数です。補償変分 CVは、この値と実際の所得の差なので、

 CV = e(p_1 + \Delta p_1, p_2, v(p_1, p_2, I)) - I

となります。

等価変分

 等価変分とは、消費者が、変化前の価格で変化後の価格の時と同じ満足度の消費をするために必要な所得の変化量のことです。つまり、財の価格が上がるとき、その前にいくらの所得を奪われれば、価格上昇後と同じ満足度になるかを表す量です。あるいは、財の価格が下がるとき、その前にいくらの所得を補償されれば、価格下落後と同じ満足度になるかを表す量です。

 ここでも満足度を効用水準と読み替えると、変化前の価格で変化後の価格と同じ効用水準の消費をするために必要な最小限の所得は、 e(p_1, p_2, v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I))で与えられます。等価変分 EVは、この値と実際の所得の差なので、

 EV = I - e(p_1, p_2, v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I))

となります。

補償変分・等価変分と消費者余剰の変化の関係

 ここまで、価格変動による消費者の満足度の変化を所得換算した量として、補償変分 CVと等価変分 EVを紹介してきました。一方で、この記事では、価格変動による消費者の得の変化を貨幣換算した量として、消費者余剰の変化 \Delta CSを紹介しました。これらの量は似ているので、何らかの関係があってもおかしくありません。実際、以下で示すように、次のような不等式が成り立ちます。

 \min (CV, EV) \le \Delta CS \le \max (CV, EV)

ただし、等号は財1が中級財の時に成立します。

 上式を見ると、 \Delta CSは常に CV EVの間の値を取ることが分かります。このことから、実務では CV EVの代わりに、 \Delta CSをそれらの近似値として用いることが多いです。というのも、 CV EVは実務上の評価が困難なためです。これらの量は、前々章や前章の定義のとおり、支出関数や間接効用関数の形を知らなければ計算ができません。しかし、これらは実務的なデータから推計するのが難しいため、 CV EVは評価が困難なのです。一方で、 \Delta CSは実務上の評価が容易です。なぜなら、この記事で紹介した通り、需要関数が分かれば計算ができるからです。需要関数は価格と消費量のデータがあれば推計できるため、 \Delta CSは評価が容易なのです。

 以下、この章では、上式を示します。ただし、財1は上級財で、その価格が上昇した場合に絞って証明を進めます。その他の場合(財1が中級財・下級財の場合や、財1の価格が下落した場合)については、同様な議論で証明が可能です。

 まず、補償変分について計算を進めます。前々章で紹介した補償変分の定義式と I = e(p_1, p_2, v(p_1, p_2, I))を合わせると、

 CV = e(p_1 + \Delta p_1, p_2, v(p_1, p_2, I)) - e(p_1, p_2, v(p_1, p_2, I))

となります。ここで、財1の補償需要関数を h_1として、この記事で紹介したシェパードの補題

 \dfrac{\partial e}{\partial p_1} = h_1

を使うと、

 \displaystyle CV = \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1}h_1(\pi, p_2, v(p_1, p_2, I))d\pi

です。

 いま、 p_1 \lt \pi \lt p_1 + \Delta p_1において、 v(p_1, p_2, I) \gt v(\pi, p_2, I)です。これを下図を使って説明します。

間接効用関数の大小関係
上図のとおり、 v(p_1, p_2, I)は、価格 p_1, p_2と所得 Iに対応する予算線Aと、ある無差別曲線Bの接点における効用関数の値です。一方、 v(\pi, p_2, I)は、価格 \pi, p_2と所得 Iに対応する予算線C上のいずれかの点における効用関数の値です。この予算線Cは、 p_1 \lt \piなので、原点から見て予算線Aよりも手前にあります。したがって、無差別曲線Bよりも手前にあります。ですので、予算線C上の点は、この記事で紹介した通り、無差別曲線B上の点よりも好ましくありません。すると、この記事で紹介した効用関数の性質により、 v(p_1, p_2, I) \gt v(\pi, p_2, I)が成り立ちます。

 さらに、財1は上級財でしたから、 h_1(\pi, p_2, v(p_1, p_2, I)) \gt h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I))となります。これを下図を使って説明します。

補償需要関数の大小関係
上図のとおり、 h_1(\pi, p_2, v(p_1, p_2, I))は、効用水準が v(p_1, p_2, I)の無差別曲線Aと、価格 \pi, p_2に対応する傾きを持った直線Bの接点に対応しています。一方、 h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I))は、効用水準が v(\pi, p_2, I)の無差別曲線Cと、価格 \pi, p_2に対応する傾きを持った直線Dの接点に対応しています。この時、無差別曲線Cは、 v(p_1, p_2, I) \gt v(\pi, p_2, I)なので、原点から見て無差別曲線Aよりも手前にあります。したがって、直線Dは、原点から見て直線Bよりも手前にあります。ここで直線Bや直線Dを予算線とみなすと、BとDは平行なので、BからDへの変化は、所得の減少に対応します。上級財は、定義より、所得の減少に伴って消費量が減る財のことでしたから、 h_1(\pi, p_2, v(p_1, p_2, I)) \gt h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I))が成り立ちます。

 したがって、

 \displaystyle CV \gt \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1}h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I))d\pi

が成り立ちます。

 ここで、この記事で紹介した双対性を使うと、 h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I)) = x_1(\pi, p_2, I)なので、

 \displaystyle CV \gt \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1}x_1(\pi, p_2, I))d\pi = \Delta CS

となります。

 次に、等価変分について計算を進めます。補償変分と同様の議論により、

 \displaystyle \begin{align}
        EV &= e(p_1 + \Delta p_1, p_2, v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I)) - e(p_1, p_2, v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I))\\
             &= \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1} h_1(\pi, p_2, v(p_1 + \Delta p_1, p_2, I))d\pi\\
             &\lt \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1} h_1(\pi, p_2, v(\pi, p_2, I))d\pi\\
             &= \int_{p_1}^{p_1 + \Delta p_1} x_1(\pi, p_2, I)d\pi\\
             &= \Delta CS
    \end{align}

が成り立ちます。

 以上で証明が終わりました。

まとめ

 今回の記事では、価格変動による消費者の満足度の変化を所得換算した量として、補償変分と等価変分を紹介しました。さらに、補償変分、等価変分、消費者余剰の変化は不等式で関係づけられ、消費者余剰の変化はあとの2つの量の近似値として用いることができることも紹介しました。タンバ経済研究所では、これからも経済学に関する情報を発信していきます。この記事が良いなと思った方は、コメント、スター、ブックマーク、読者登録などしていただければ励みになります!

【ミクロ経済学(6)】消費者の得の評価 ~逆需要関数、消費者余剰~

概要

 消費者がある財をある量だけ消費した時、どれだけ得をしたのでしょうか?また、その得は、財の価格変動によってどれだけ変化するのでしょうか?今回の記事ではこれらの問いについて論じます。

 なお、今回の記事では、以下の記事の仮定を引き継ぎます。 tioe.jp また、以下の記事の知識を前提とします。 tioe.jp 記事を読んでいて分からないことがあれば、適宜上記の記事を参照してください。

目次

逆需要関数

 この章では、この記事で紹介した需要関数から、消費者の支払意思を表す関数を導きます。

 さて、財1, 2 の単位量当たりの価格を p_1,  p_2とし、消費者の所得を Iとします。この時、財1の消費量 x_1は、

 x_1 = x_1(p_1, p_2, I)

のように、 p_1,  p_2,  Iの関数として表されるのでした。そして、この関数を需要関数というのでした。

 上記の式を、 p_2,  Iを固定したうえで、 p_1について解くと、

 p_1 = p_1(x_1, p_2, I)

のような式が得られます。この時の右辺を逆需要関数といいます。以後、 p_2,  Iはずっと固定して考えるため、この関数を p_1(x_1)と表します。また、需要関数も、同じ理由から x_1(p_1)と書くことにします。

 逆需要関数は、財1の消費量が x_1の時の、財1の単位量当たりの価格を表す関数です。これをやや無理やり解釈すると、逆需要関数は、消費者が財1をすでに x_1消費しているとき、追加で1単位を消費するために支払っても良いと思っている金額を表しているようにみえます。つまり、逆需要関数は消費者の支払意思を表しているのです。

消費者余剰

 この章では、前章で紹介した逆需要関数を用いて、消費者が財1を X_1だけ消費した時の消費者の得を表します。

 まず、消費者がまだ財1を消費していないところから議論を始めます。このとき、微小な量 \Delta x_1 = X_1/N ( Nは非常に大きい数)だけ財1を消費するために支払っても良い金額は、前章の解釈から、 p_1(0) \Delta x_1です。次に、さらに追加で財1を \Delta x_1だけ消費するために支払っても良い金額は、 p_1(\Delta x_1) \Delta x_1です。その次に、さらに追加で財1を \Delta x_1だけ消費するために支払っても良い金額は、 p_1(2 \Delta x_1) \Delta x_1です。これを X_1だけ消費するまで続けると、それまでに支払っても良いと思った金額の合計は、

 \displaystyle \sum_{i=0}^{N-1} p_1(i\Delta x_1) \Delta x_1 = \int_{0}^{X_1} p_1(x_1) dx_1

となります。 一方で、実際に消費者が支払った合計金額は、 p_1(X_1) X_1なので、消費者は、

 \displaystyle CS = \int_{0}^{X_1} p_1(x_1) dx_1 - p_1(X_1) X_1

だけ得をしたということになります。これを消費者余剰といいます。

 上記の定義式より、縦軸を財1の価格、横軸を財1の消費量として、逆需要関数を描くと、消費者余剰は下図の青色で示した領域の面積になります。

逆需要曲線と消費者余剰

価格変動による消費者余剰の変化

 この章では、価格変動による消費者余剰の変化が需要関数の積分として表せることを示します。

 いま、財1の価格が P_1から P_1 + \Delta P_1に値上がったとしましょう。この時、前章で説明した通り、値上がり前の消費者余剰は、下図の青色で示した領域の面積になります。

消費者余剰の変化は需要関数の積分で表せる

一方、値上がり後の消費者余剰は、上図の赤色で示した領域の面積になります。したがって、値上がりによる消費者余剰の損失 \Delta CSは、青色の領域から、赤色の領域を差し引いた領域の面積に等しいです。

 このグラフを、縦軸と横軸を逆にして見てみましょう。すると、以下の式が成り立つことが分かります。

 \displaystyle \Delta CS = \int_{P_1}^{P_1 + \Delta P_1} x_1(p_1) dp_1

ここで、 x_1(p_1) p_1(x_1)逆関数であるという事実を使いました、このように、価格変動に伴う消費者余剰の変化は、需要関数の積分として表せます。

まとめ

 今回の記事では、消費者がある財をある量だけ消費した時にどの程度得をしたのかを表す消費者余剰という概念を紹介しました。また、価格変動の際の消費者余剰の変化は、需要関数の積分として表せることを示しました。これらのことは今後の分析でも使いますので、ぜひ覚えておいてください!

【ミクロ経済学(5)】様々な種類の財 〜上級財、中級財、下級財、普通財、ギッフェン財、粗代替財、粗補完財〜

概要

 価格や所得の変化に伴い、財の消費量は様々に変化します。今回の記事では、その変化のしかたによる、財の分類をいくつか紹介します。

 なお、今回の記事では、以下の記事のスルツキー分解に関する知識を前提とする部分があります。 tioe.jp 今回の記事で分からないことがあれば、適宜上記の記事を参照してください。

目次

上級財・中級財・下級財

 所得の変化に対する消費量の変化のしかたによって、財は上級財、中級財、下級財に大別されます。この章では上級財、中級財、下級財の定義とその例を見ていきます。

 所得が変化した際、その変化と同じ方向に消費量が変化する財を上級財といいます。一方、その変化と反対の方向に消費量が変化する財を下級財といいます。つまり、所得が上昇した時、上級財の消費量は増え、下級財の消費量は減ります。逆に、所得が下降した時、上級財の消費量は減り、下級財の消費量は増えます。最後に、中級財は所得が変化しても消費量が変化しない財のことです。

 上級財の例としては、旅行、高級ブランド品、外食などがあげられます。確かに、所得が増えると、それまで我慢していたこれらの財の消費が増えると想像できます。逆に、所得が減ると、これらの贅沢は節約の対象となって、その消費量は減るでしょう。

 中級財の例としては、お米、塩、トイレットペーパーなどがあげられます。確かに、これらは生活必需品なので、所得が増えても減っても消費量はあまり変化しないでしょう。

 下級財の例としては、中古品、発泡酒カップ麺などがあげられます。確かに、所得が増えると、これらの財の消費は新品、ビール、外食に代替されそうです。逆に、所得が減ると、節約のためにこれらの財の消費は増えるでしょう。

普通財とギッフェン財

 価格の変化に対する消費量の変化のしかたによって、財は普通財とギッフェン財に大別されます。この章では、普通財、ギッフェン財の定義とその例を見ていきます。

 価格が変化した際、その変化と反対の方向に消費量が変化する財を普通財といいます。一方、その変化と同じ方向に消費量が変化する財をギッフェン財といいます。つまり、価格が上昇した時、普通財の消費量は減り、ギッフェン財の消費量は増えます。逆に、価格が下降した時、普通財の消費量は増え、ギッフェン財の消費量は減ります。

 普通財の例はあげるまでもありません。ほとんどの「普通の」財は価格が上がれば消費量が減り、価格が下がれば消費量が増えるでしょう。

 ギッフェン財の例は、存在するのかどうか長く議論が続いていて、はっきりとした結論は出ていません。ただし、19世紀のアイルランドで起きたジャガイモ飢饉の際のジャガイモがギッフェン財だったのではないかとの説があります。

 ここで、ギッフェン財は少なくとも下級財である、ということに触れておきます。というのも、この記事でみたように、ある財の価格が上がったとき、代替効果はその財の消費量を減らす方向に働くからです。それでも消費量が増えるということは、所得効果が代替効果を上回るほど正の方向に大きいということです。所得が減ると消費量が増える財は下級財でしたから、ギッフェン財は下級財ということになります。

粗代替財と粗補完財

 前章では、任意の財の価格が変化した時の、その財自体の消費量の変化に注目しました。この章では、他の財の消費量の変化に注目し、その変化のしかたによって、財を粗代替財と粗補完財に大別します。また、それらの財の例もみていきます。

 ある財の価格が変化した際、その価格の変化と同じ方向に消費量が変化する他の財を粗代替財といいます。一方、その価格の変化と反対の方向に消費量が変化する他の財を粗補完財といいます。つまり、ある財1の価格が上昇した際、別の財2が粗代替財であれば、財2の消費量は増え、粗補完財であれば、財2の消費量は減ります。逆に、財1の価格が下降した際、財2が粗代替財であれば、財2の消費量は減り、粗補完財であれば、財2の消費量は増えます。

 粗代替財の例としては、コーヒーに対する紅茶、牛肉に対する豚肉、バターに対するマーガリンなどがあげられます。確かにこれらの財は、もう一方の財の価格が上がれば、その代替品として消費されそうです。逆に、もう一方の財の価格が下がれば、今度はそちらへ消費が流れていくことが想像できます。

 粗補完財の例としては、コーヒーに対する砂糖、牛肉に対する赤ワイン、バターに対するパンなどが挙げられます。これらの財は、もう一方の財とセットで買われることが多いので、もう一方の財の価格が上がれば、その財と一緒に消費量が減りそうです。逆に、もう一方の財の価格が下がれば、その財と一緒に消費量が増えることが想像できます。

 ここで、粗補完財の所得効果の向きと大きさについて触れておきます。この記事でみたように、ある財の価格が上がったとき、代替効果は他の財の消費量を増やす方向に働きます。それにもかかわらず、後者の財が粗補完財である場合、その消費量は減ります。ということは、所得効果が代替効果を上回るほど負の方向に大きいということです。逆に、ある財の価格が下がったとき、代替効果は他の財の消費量を減らす方向に働きます。 それにもかかわらず、後者の財が粗補完財である場合、その消費量は増えます。ということは、所得効果が代替効果を上回るほど正の方向に大きいということです。このように、粗補完財では、所得効果が、他の財の価格の変化と反対の方向に、代替効果を上回る大きさで働きます。

まとめ

 今回の記事では、所得や価格の変化に対する消費量の変化のしかたによって、財を様々に分類しました。具体的には、上級財、中級財、下級財、普通財、ギッフェン財、粗代替財、粗補完財という分類を紹介しました。また、ギッフェン財は下級財であること、粗補完財では、所得効果が、他の財の価格の変化と反対の方向に、代替効果を上回る大きさで働くことにも触れました。

【ミクロ経済学(4)】価格変動による消費行動の変化 ~代替効果、所得効果、スルツキー方程式~

概要

 前回の記事では、与えられた財の価格のもとで、消費者がどのように財の消費量を決めるのかを論じました。では、財の価格が変化した時、消費量はどのように変化するのでしょうか?今回の記事ではこの問いについて論じます。

 今回の記事は、以下の3つの記事の仮定や知識を前提としています。 tioe.jp tioe.jp tioe.jp 今回の記事を読んでいて分からないことがあれば、適宜上記の記事を参照してください。

目次

代替効果と所得効果

 いま、財1の価格が p_1から p_1 + \Delta p_1に変化したとしましょう。この時の財1, 2の消費量の変化は代替効果によるものと所得効果によるものに分解できます。代替効果とは、財1の財2に対する相対価格が変化することにより、財1, 2の消費量が変化する効果のことです。所得効果とは、財1の価格変動で消費者の財1, 2全体の購買力、つまり実質所得が変化することにより、財1, 2の消費量が変化する効果のことです。このように、価格変動の影響を代替効果と所得効果に分けて考えることをスルツキー分解といいます。

 この代替効果と所得効果を図で説明します。なお、以下この章では \Delta p_1 \gt 0として話を進めますが、 \Delta p_1 \lt 0の場合も同様に議論が可能です。

代替効果と所得効果
上図で、価格変化前の財の消費量を x = (x_1, x_2)とし、価格変化後の財の消費量を x' = (x'_1, x'_2)とします。また、財2の価格を p_2、消費者の所得を Iとします。すると、 xは、財1軸との切片が I/p_1で財2軸との切片が I/p_2の予算線と、ある無差別曲線との接点として描けます。一方、 x'は、財1軸との切片が I/(p_1 + \Delta p_1)で財2軸との切片が I/p_2の予算線と、ある無差別曲線との接点として描けます。この状況のもと、価格変動後の予算線に並行で、 xを通る無差別曲線に接する補助線を引き、その接点を \hat{x} = (\hat{x}_1, \hat{x}_2)とします。この点 \hat{x}は、変動後の財の価格において、 xと同じ効用を与える点です。価格変動前と同じ効用を与えるのですから、実質所得の変化がない、すなわち、所得効果がない場合の消費量を表していると言えます。すなわち、 \hat{x}は代替効果だけがある場合の消費量です。したがって、代替効果は \hat{x} - xと表せます。そして、消費量の変化の残りの部分が所得効果なのですから、これは、 x' - \hat{x}と表せます。

 代替効果と所得効果のうち、代替効果は、それぞれの財に対して及ぼす影響の方向が決まっています。具体的には、 \hat{x}_1 \lt x_1で、 \hat{x}_2 \gt x_2です。つまり、財1の価格上昇による代替効果は、財1の消費量を押し下げ、財2の消費量を押し上げようとします。これは、無差別曲線が右肩下がりで、かつ、限界代替率が逓減することから明らかです。一方で、所得効果が各財に対して及ぼす影響の方向は財によって変わってきます。

スルツキー方程式

 前の章では、価格の変化 \Delta p_1がある程度の大きさを持つ場合について考えました。では、これを無限に小さくしたときに、各財の消費量の変化率はどのようになるのでしょうか?この章ではこの問いを考えます。

 まず、この記事で紹介した双対性

 h(p, u) = x(p, e(p, u))

から議論を始めます。ここで p = (p_1, p_2)は財1, 2の価格、 uは効用水準、 h(p, u) = (h_1(p, u), h_2(p, u))は補償需要関数、 e(p, u)は支出関数、 x(p ,I) = (x_1(p, u), x_2(p, u))は需要関数です。

 この双対性の式を p_1偏微分すると、

 \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, u) = \dfrac{\partial x}{\partial p}(p, e(p, u)) + \dfrac{\partial x}{\partial I}(p, e(p, u))\dfrac{\partial e}{\partial p_1}(p, u)

となります。

 定義より、 e(p, u) = p_1 h_1(p, u) + p_2 h_2(p, u)なので、


        \begin{align}
            \dfrac{\partial e}{\partial p_1}(p, u) &= h_1(p, u) + p_1 \dfrac{\partial h_1}{\partial p_1}(p, u) + p_2 \dfrac{\partial h_2}{\partial p_1}(p, u) \\
                &= h_1(p, u) + p \cdot \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, u)
        \end{align}

です。ここで、 \partial h(p, u)/\partial p_1に注目しましょう。 p_1だけを変化させた時、 h(p, u)は無差別曲線上を動きます。したがって、 \partial h(p, u)/\partial p_1は、点 h(p, u)における接線に平行になります。この接線は、財の価格が pの時の支出線なので、ベクトル (p_2, -p_1)に平行です。つまり、

 \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, u) = \lambda \begin{pmatrix} p_2 \\ -p_1 \end{pmatrix}

を満たす \lambdaが存在します。すると、これは pに直交するので、

 \dfrac{\partial e}{\partial p_1}(p, u) = h_1(p, u)

であることが分かります。 この式を、シェパードの補題といいます。

 この補題により、

 \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, u) = \dfrac{\partial x}{\partial p}(p, e(p, u)) + \dfrac{\partial x}{\partial I}(p, e(p, u))h_1(p, u)

となりますから、

 \dfrac{\partial x}{\partial p}(p, e(p, u)) = \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, u) - \dfrac{\partial x}{\partial I}(p, e(p, u))h_1(p, u)

です。 ここで、効用水準 uに間接需要関数 v(p, I)を代入すると、 e(p, v(p, I)) = Iなので、

 \dfrac{\partial x}{\partial p}(p, I) = \dfrac{\partial h}{\partial p_1}(p, v(p, I)) - \dfrac{\partial x}{\partial I}(p, I)h_1(p, v(p, I))

が成り立ちます。これをスルツキー方程式といいます。式の形状から、明らかに、右辺第第1項が代替効果、第2項が所得効果を表しています。

まとめ

 今回の記事では、財の価格の変化による消費行動の変化を論じました。具体的には、価格変動による消費量の変化は、代替効果によるものと所得効果によるものに分解できることを示しました。さらに、この分解の微分による表現として、スルツキー方程式を導出しました。また、その過程で、シェパードの補題という支出関数と補償需要関数の関係式を導出しました。代替効果、所得効果、シェパードの補題は、これからの議論にも用いるので、ぜひ覚えておいてください!

【ミクロ経済学(3)】消費者の消費行動の分析 ~需要関数、補償需要関数、双対性~

概要

 前々回前回と、選好の構造やその数値化について論じてきました。しかし、そこで論じられていたのは、どの選択肢が、どの選択肢より良いかということだけです。実際に消費者がどのような選択肢をとるのかについては不明でした。今回の記事では、与えられた制約下において、消費者がどのような消費行動をとるのかを考えます。

 なお、今回の記事では以下の記事の仮定を前提としますので、適宜ご参照ください。 tioe.jp

目次

需要関数と間接効用関数

 この章では、与えられた価格と所得の下で、消費者がどのような消費行動をとるのかを考えます。

 いま、財1の価格を p_1、 財2の価格を p_2、消費者の所得を Iとします。このとき、消費者の財1の消費量 x_1と財2の消費量 x_2は、

 p_1 x_1 + p_2 x_2 \le I

を満たす必要があります。なぜなら所得の範囲でしか財は消費できないからです。これを満たす x = (x_1, x_2)の集合を予算集合といいます。経済学では、消費者はこの予算集合の範囲内で効用を最大化しようとすると考えます。つまり、制約 p_1 x_1 + p_2 x_2 \le Iのもとで効用関数 u(x) ( x = (x_1, x_2))を最大化する xが実際の消費量だと考えるわけです。では、どのような xで効用関数は最大となるのでしょうか?

 下図のように、仮に、予算線 p_1 x_1 + p_2 x_2 = Iと、ある無差別曲線が接したとします。この時、その接点 x^\astにおいて u(x)は最大となることが分かります。

予算線と無差別曲線の接点が効用を最大化する
なぜなら、この時、無差別曲線の凸性より、上図で青色で示した予算集合の x^\ast以外の任意の点 \hat{x}は、すべて原点から見て無差別曲線より手前にあるからです。そのような点は、無差別曲線上の点よりも好ましくないのでした。したがって u(x^\ast) \gt u(\hat{x})となり、点 x^\ast u(x)の最大値を与えることが分かります。

 では、そのような接点は常に存在するのでしょうか?実は、この記事の仮定とそこから導き出される無差別曲線の性質を認めれば、接点は必ず1つだけ存在することが分かります。厳密な証明は省略しますが、消費平面に適当に予算線を書いて、この記事に書いたような性質を満たす無差別曲線群を沢山書くと、必ず1つの接点を持つことが直感的に分かると思います。

 以上のことから、効用を最大化する xは、予算線と無差別曲線の接点であることが分かりました。したがって、満たすべき式は、以下の2式です。

 
        \begin{align}
            &p_1 x_1 + p_2 x_2 = I,\\
            &MRS(x) = \dfrac{\frac{\partial u(x)}{\partial x_1}}{\frac{\partial u(x)}{\partial x_2}} = \dfrac{p_1}{p_2}
        \end{align}

1つ目の式は、接点が予算線上に乗っているということを意味する式です。2つ目の式は、接点において、予算線の傾きと、無差別曲線の傾き、すなわち限界代替率 MRS(x)が等しくなるということを意味する式です。

 これらの式の解は、当然のことながら価格 p = (p_1, p_2)と所得 Iに依存します。これを x(p, I) = (x_1(p, I), x_2(p, I))などと書いて、需要関数と呼びます。また、この時の効用 v(p, I) = u(x(p, I))間接効用関数と呼びます。

補償需要関数と支出関数

 経済学においては、与えられた価格において、与えられた効用の水準を満たすための最小の支出を考えることもあります。この章では、どのような xにおいて、そのような最小の支出が実現するのかを見ていきます。

 まず、問題を正確に定式化しましょう。いま、財1, 2の価格を p = (p_1, p_2)とします。次に x = (x_1, x_2)の制約条件を任意の所与の実数 uを用いて、 u(x) \ge uで与えます。この時の u効用水準といいます。この条件のもと、支出 p_1 x_1 + p_2 x_2を最小化するというのが、いま考えている問題です。

 消費平面上で、支出の等高線(支出線)は傾きが p_1/p_2の直線群で表せます。このことを考慮すると、ある支出線と無差別曲線 u(x) = uが接する時、その接点 x^\astにおいて最小の支出が実現していることが分かります(下図)。

支出線と無差別曲線の接点が支出を最小化する
このような接点は、前章と同じく、この記事の仮定を認めれば、必ず1つだけ存在することが分かります。

 以上のことから、支出を最小化する xは、支出線と無差別曲線の接点であることが分かりました。したがって、満たすべき式は、以下の2式です。

 
        \begin{align}
            &u(x) = u,\\
            &MRS(x) = \dfrac{\frac{\partial u(x)}{\partial x_1}}{\frac{\partial u(x)}{\partial x_2}} = \dfrac{p_1}{p_2}
        \end{align}

 これらの式の解は、当然のことながら価格 p = (p_1, p_2)と効用水準 uに依存します。これを h(p, u) = (h_1(p, u), h_2(p, u))などと書いて、補償需要関数と呼びます。また、この時の支出 e(p, u) = p_1 h_1(p, u) + p_2 h_2(p, u)支出関数といいます。

需要関数と補償需要関数の双対性

 ここまでの2章は、それぞれ、予算制約下での効用最大化と、効用制約下での支出最小化という別々の問題を考えていました。しかし、それらを実現する点は、いずれも、予算線ないしは支出線という傾き p_1/p_2の直線と無差別曲線の接点として与えられるのでした。この共通性から、これら2つの問題の答えは何かしら関連していることが予想できます。この章では、この関連性を導出します。

 まず、補償需要関数について、対応する支出関数を所得としたときの需要関数と一致するはずです。つまり、

 h(p, u) = x(p, e(p, u))

です。

 次に、需要関数について、対応する間接効用関数を効用水準としたときの補償需要関数と一致するはずです。つまり、

 x(p, I) = h(p, v(p ,I))

です。

 以上から、需要関数と補償需要関数の間には関連性があることが分かりました。これらの関連性のことを双対性と呼びます。

まとめ

 この記事では、2つの最適化問題を考えました。1つは、与えられた価格と所得のもとでの効用の最大化問題です。もう1つは、与えられた価格と効用水準の下での支出の最小化問題です。そして、これらの問題は、どちらも直線と無差別曲線の接点を求める問題に帰着することを見ました。また、この共通性から、これらの問題の答えである需要関数や補償需要関数が双対性により結びついていることが分かりました。需要関数や補償需要関数、双対性は今後の分析でも利用しますので、ぜひ覚えておいてください!

【ミクロ経済学(2)】消費者の好みの形式的な数値化 ~効用関数~

はじめに

 前回の記事では、選好を特徴づける概念として、無差別曲線を導入しました。そこでは、無差別曲線は山の等高線のようなものという例えを述べましたが、その山の高さまでは定義しませんでした。このままでは数学的な分析がしづらいため、この記事では、その山の高さとして、選好の度合いを数値化した、効用関数という概念を導入します。その上で、限界代替率の効用関数による表現の導出も行います。ぜひ最後まで楽しんで読んでくださいね!

 選好、無差別曲線って何?という方は、ぜひ以下の記事をご覧ください! tioe.jp また、今回の記事でも2財モデルを仮定しているので、そちらについても上記記事をご参照ください。

目次

効用関数

 この章では、選好の度合いを数値化した関数を導入します。これを効用関数といいます。この効用関数はどのような性質を持つべきでしょうか?

 まず、選好の度合いの大きい、小さいを表現するのですから、実数値関数であるべきでしょう。

 次に、より好ましい選択肢に対しては、より大きい値を返すべきでしょう。より正確には、選択肢 x,  yと効用関数 uについて、次のようなことが成り立つべきです。

  •  x \succsim yならば u(x) \ge u(y)
  •  x \succ yならば u(x) \gt u(y)
  •  x \sim yならば u(x) = u(y)

 注意してほしいのは、これらの条件は、効用関数をただ一つに定めるものではないということです。実際、一つの効用関数の候補u(x)から、他の効用関数の候補をいくらでも作れることが次のようにして分かります。

 いま、効用関数の候補u(x)に単調変換 fを施した関数

 \hat{u}(x) = f(u(x))

を考えましょう。ここで単調変換とは、 u \gt vならば f(u) > f(v)が成り立つような変換のことです。すると、

  •  x \succ yならば u(x) \gt u(y)なので f(u(x)) \gt f(u(y))より \hat{u}(x) \gt \hat{u}(y)
  •  x \sim yならば u(x) = u(y)なので f(u(x)) = f(u(y))より \hat{u}(x) = \hat{u}(y)
  •  x \succsim yならば x \succ yまたは x \sim yなので上記2つより \hat{u}(x) \ge \hat{u}(y)

ということが分かります。1つの効用関数の候補に様々な単調変換を施せば、効用関数の候補は無数に作ることができるのです。

 以上のことから、同じ選好に対して、効用関数の候補はいくつもあることが分かりました。では、これらの候補のうち、どれを本当の効用関数として採用すべきなのでしょうか?答えは、「何でもよい」です。効用関数の値自体には経済学的な意味はなく、あくまで選好の度合いを形式的に数値化したものにすぎないのです。ですから、分析に応じて使いやすいものを使えばよい、ということになります。

限界代替率の効用関数による表現

 前章で、効用関数の値自体に経済学的な意味はなく、あくまで形式的なものだと言いました。しかし、効用関数を使って経済学的に意味のある量を表現することは可能です。この章では、その例として、効用関数で限界代替率が表現できることを示します。

 まず、消費平面上の点 x = (x_1, x_2)に注目し、この点における限界代替率 MRS(x)を考えることにします。限界代替率は、下図のように、 xを通る無差別曲線上で xからほんのわずかに離れた点を x' = (x_1 + \Delta x_1, x_2 - \Delta x_2)とした時、 MRS(x) = \Delta x_2 / \Delta x_1で与えられるのでした。

無差別曲線と限界代替率

 この時、 x'における効用関数の値は、 u(x') = u(x_1 + \Delta x_1, x_2 - \Delta x_2)です。いま、 \Delta x_1 \Delta x_2は微小なので、

 \displaystyle u(x') = u(x) + \frac{\partial u(x)}{\partial x_1}\Delta x_1 - \frac{\partial u(x)}{\partial x_2}\Delta x_2

と書けます。

 ここで、 x x'が同一の無差別曲線上に乗っていたことを思い出すと、効用関数の定義から、 u(x') = u(x)なので、上式は、

 \displaystyle 0 = \frac{\partial u(x)}{\partial x_1}\Delta x_1 - \frac{\partial u(x)}{\partial x_2}\Delta x_2

となります。

 ここからすぐに、以下が分かります。

 \displaystyle MRS(x) = \frac{\Delta x_2}{\Delta x_1} = \frac{\frac{\partial u(x)}{\partial x_1}}{\frac{\partial u(x)}{\partial x_2}}

こちらが、限界代替率の効用関数による表現です。

 さて、前章で議論した通り、効用関数はいくらでも別の形が取れるのでした。では、このとき、限界代替率は変わってしまうのでしょうか?これは経済学的におかしな話です。実は、次のようにして、効用関数として別のものを使っても、限界代替率は変わらないことが示せます。

 いま、同じ選好に対する別々の効用関数 u(x) \hat{u}(x)の関係が変換 fにより、

 \hat{u}(x) = f(u(x))

のように表せるとします。この時、 \hat{u}(x)による限界代替率の表現 \hat{MRS}(x)は、

 \displaystyle \hat{MRS}(x) = \frac{\frac{\partial \hat{u}(x)}{\partial x_1}}{\frac{\partial \hat{u}(x)}{\partial x_2}} = \frac{f'(u(x))\frac{\partial u(x)}{x_1}}{f'(u(x))\frac{\partial u(x)}{\partial x_2}} = \frac{\frac{\partial u(x)}{x_1}}{\frac{\partial u(x)}{\partial x_2}}

となり、 u(x)による限界代替率の表現に一致します。効用関数によって限界代替率が変わりはしないのです。

おわりに

 この記事では、選好の度合いを形式的に数値化した効用関数という概念を導入しました。また、同じ選好に対して効用関数がいくらでも取れることを示しました。そして、経済学的な意味を直接は持たない効用関数から、経済学的に意味のある限界代替率が導けることも示しました。タンバ経済研究所では、これからも経済学に関する情報を発信していきます。今回の記事をここまで読んでくださった方は、ぜひコメントなどしてください!とても励みになります!

【ミクロ経済学(1)】消費者の好みの構造 ~選好、無差別曲線、限界代替率~

はじめに

 消費者は自らの好みと予算に従って何をどの程度買うのかを決めます。このうち、予算は要するにお金の話であるため具体的で分かりやすいのに比べて、好みは抽象的で分かりづらい概念です。経済学では、この好みという概念をどのように捉えるのでしょうか?この記事では、好みに関する標準的な仮定と、その仮定から導かれる好みに関するいくつかの性質を紹介します。ぜひ最後まで楽しんで読んでくださいね!

目次

財についての仮定

 本題に入る前に、この記事での(モノやサービス)に関する仮定を2点述べます。

 1点目は、この世に財は2種類しかないという仮定です。これは2財モデルといわれるものです。実際には、この世には膨大な数の財がありますが、簡略化のために2種類しかないと仮定します。一見、あり得ないまでの簡略化のように見えますが、経済学のエッセンスを理解するためにはこれで十分なことが多いです。

 2点目は、その2財はいずれも分割可能であるという仮定です。分割可能とは、任意の量で消費が可能という意味です。例えば、家は1軒、2軒と整数値でしか購入できないので分割可能ではないですが、電気は100.1キロワット時、123.45キロワット時など、任意の量で消費することができるので分割可能です。前者を分割不可能財、後者を分割可能財と言います。この仮定により、数学的な分析が容易になります。こちらも、モデルを単純化しすぎているような気もしますが、経済学のエッセンスを理解するためには十分なことが多いです。

選好とその仮定

 消費者の好みのことを、経済学では消費者の選好といいます。選好とは、「あっちの選択肢より、こっちの選択肢が良い」といった選択肢の好みのことです。この記事における選択肢とは、1つめの財(財1)をいくら消費して、2つ目の財(財2)をいくら消費するかということです。したがって、任意の選択肢 xは、非負の実数 x_1,  x_2を用いて、

 x = (x_1, x_2)

と表すことができます。これは、財1を x_1消費し、財2を x_2消費する選択肢を意味しています。この章では、これらの選択肢間の選好関係についての、経済学における標準的な仮定を紹介します。

 ここで、選択肢間の選好関係についての記述を簡単にするために、記号を3つ導入します。 \succsim \succ \simです。まず、選択肢 xが選択肢 yと同等かそれよりも好ましい時、これを

 x \succsim y

と表します。次に、 y \succsim xでない時、これを

 x \succ y

と表します。これは、 x yよりも好ましいという意味です。最後に、 x \succsim yかつ y \succsim xである時、これを

 x \sim y

と表します。これは、 x yが同等に好ましいという意味です。

 経済学では、これらの選好関係 \succsim,  \succ,  \simについて、標準的には以下のような仮定をおきます。

  • 完備性: 任意の選択肢 x yについて、 x \succsim yまたは y \succsim xが成り立つ
  • 推移性: 選択肢 x,  y,  zについて、 x \succsim yかつ y \succsim zならば x \succsim zである
  • 強単調性: 選択肢 x = (x_1, x_2),  y = (y_1, y_2)について、 x \ne yかつ x_1 \ge y_1かつ x_2 \ge y_2ならば、 x \succ yである
  • 強凸性: 選択肢 x yについて、 x \sim yならば、 0より大きく 1より小さい任意の実数 \lambdaについて、 \lambda x + (1-\lambda) y \succ x \sim yである

この記事では、さらに次の仮定も要請することとします。

  • 連続性: 選択肢の集合がなす曲線 x(t) ( 0 \le t \le 1)と選択肢 yについて、 x(0) \succ yかつ y \succ x(1)ならば、 x(t') \sim yとなる t' \in (0,1)が必ず存在する

以下でそれぞれの仮定の意味を見ていきましょう。

 1点目に、完備性についてです。これは、あらゆる選択肢が比較可能であるということを意味しています。

 2点目に、推移性についてです。これは、選好が首尾一貫しているということを意味しています。

 3点目に、強単調性についてです。これは、多ければ多いほど好ましいということを意味しています。

 4点目に、強凸性についてです。これは、非常にざっくり言うと、中間が好ましいということを意味しています。例えば、極端に財1の消費が多い選択肢 (100, 2)と、極端に財2の消費が多い選択肢 (2, 100)が同等に好ましい時、これらを 50:50ブレンドしたバランスの取れた選択肢 (51, 51)の方が好ましいということです。これを任意の同等に好ましい選択肢 x,  yブレンドの割合 \lambdaに一般化したのがこの仮定です。完備性、推移性、強単調性に比べ、強凸性は少々不自然に感じられるかもしれません。しかし、この性質により、数学的な分析が容易になり、また、経済学的に妥当な結果が得られるため、このような仮定をおきます。

 5点目に、連続性についてです。これは、選択肢を連続的に変化させた時に選好がいきなり変化しないことを意味しています。この性質は、私の知る限り、あまり一般的には仮定されませんが、不自然でもないため、この記事では仮定させてください。ただし、通常、選好の連続性はもっと別のものを指すので、他の文献を読む時には注意してください。

無差別曲線

 選択肢 xと同等に好ましい選択肢の集合を xを含む無差別集合といいます。ここで、横軸に財1の消費量、縦軸に財2の消費量をとる2次元平面(消費平面)を考えると、無差別集合は、消費平面上の曲線として描けます(すぐ後で示します)。これを無差別曲線といいます。無差別曲線は、消費者の消費を分析するにあたって中心的な役割を果たす概念です。この章では、無差別曲線の標準的な性質について紹介します。

 その前に、無差別集合が曲線になることを示します。まず、消費平面上で、選択肢 xを含む無差別集合を図示しようとすると、下の図のようになります。

無差別集合は曲線になる
この時、選好の強単調性から、 xの右上の領域にある選択肢は xよりも好ましく、 xの左下の領域にある選択肢は xより好ましくありません。したがって、無差別集合は、 xの左上および右下の領域にしか広がれません。これが無差別集合上のすべての点で成り立つので、無差別集合は曲線でなければなりません。

 この無差別曲線は以下のような性質を持ちます

  1. 右肩下がり
  2. 消費平面内部で途切れない
  3. 原点から見て無差別曲線よりも奥の領域の選択肢は、無差別曲線上の選択肢よりも好ましく、手前の領域の選択肢は、無差別曲線上の選択肢よりも好ましくない
  4. 原点に対して凸である
  5. 同等に好ましいわけではない2つの選択肢を通るそれぞれの無差別曲線は交わったり接したりしない
  6. 原点から遠い無差別曲線上の選択肢ほど好ましい

これらを示していきましょう。

 まず、1番目の性質については、選好の強単調性から自明です。

 2番目の性質については、仮に無差別曲線が下図のように消費平面の内部の点 xで途切れるとしましょう。

無差別曲線は消費平面内部で途切れない
この時、上図のように、無差別曲線を迂回して、 xより好ましくない yと、 xより好ましい zを結ぶ曲線が描けます。この曲線上には、選好の連続性から、 xと同等に好ましい点があるはずです。しかし、これは、無差別曲線が xで途切れていることに矛盾します。したがって、無差別曲線は消費平面の内部で途切れることができません。

 3番目の性質については、選好の強単調性から自明です。

 4番目の性質については、下図をもとに説明します。

無差別曲線は原点に対して凸
上図のように、無差別曲線上の任意の異なる2点 x,  yを考えます。この2点を結ぶ線分上の任意の点 zは、選好の凸性から x yより好ましいです。したがって、3番目の性質より、 zは原点から見て無差別曲線よりも奥の領域にあるということになります。これが、無差別曲線上のあらゆる場所で成り立つわけですから、無差別曲線は、原点に向かって出っ張った形でなければなりません。

 5番目の性質については、仮に x \sim yではない x,  yを通る2つの無差別曲線が zで交わったり接したりしたとします。この時、無差別曲線の定義から、 x \sim z,  z \sim yです。したがって、選好の推移性から x \sim yが成り立ちますが、これは矛盾です。ですから、交点あるいは接点 zは存在してはいけません。

 最後に、6番目の性質は3番目の性質から明らかでしょう。

 以上のことから、消費平面上の無差別曲線群は下図のようになることが分かります。さながら、右上遠方に頂上を持つ山の等高線のようです。

消費平面上の無差別曲線群

限界代替率

 財1を得るために財2をどの程度犠牲にできるかの尺度を財2の財1に対する代替率といいます。代替率が大きければ、沢山の財2を犠牲にしてでも財1を得たいということになります。反対に、代替率が小さければ、財1を得るために財2をそこまで犠牲にしたくないということになります。この章では、この代替率の正確な定義と、それが持つ性質を紹介します。

 まず、無差別曲線を使って代替率を正確に定義します。無差別曲線上に点 xがあるとして、ここから \Delta x_1だけ財1の消費を増やしたい場合を考えます。このとき、無差別曲線の性質から、下図の \Delta x_2までなら財2の消費を減らせることが分かります。

代替率の定義
なぜなら、この時、 x' = (x_1 + \Delta x_1, x_2 - \Delta x_2) xと同等に好ましくなるからです。仮にこれよりも \Delta x_2を大きくすると、 x'は原点から見て無差別曲線より手前の領域に入ってしまうので、より好ましくない選択肢となってしまいます。したがって、 x' xを通る無差別曲線上になければなりません。この時の \Delta x_2 / \Delta x_1が代替率の正確な定義です。

 このように代替率を定義すると、代替率は xにも \Delta x_1にも依存することが分かります。このうち、 \Delta x_1については、 \Delta x_1 \to 0なる極限を取ることで、依存性を消し去ることができます。これは xにおける局所的な代替率であり、限界代替率と呼ばれます。これを MRS(x)と書くことが多いです。定義より、 MRS(x) xにおける無差別曲線の接線の傾きの絶対値に一致します。ただし、ここで、 MRS(x)をよく定義するために、無差別曲線は滑らかであるということを新たに仮定します。なぜなら、仮に無差別曲線が滑らかでないなら、接線が一つに定まらないからです。

 さて、ここで、さらに新たな仮定をおきます。それは、無差別曲線は財1や財2の軸とぶつからないという仮定です。これは、財1や財2は互いに他方を完全に代替することはできないという意味です。例えば、仮に、 (5, 4)を通る無差別曲線が (10, 0)で財1の軸にぶつかるとしましょう。このとき、 4の財2は 5の財1で完全に代替できるということになります。しかし、現実には、一方の財が他方の財を完全に代替することは稀でしょうから、そのようなことは考えない、というわけです。

 以上の仮定のもとで、限界代替率は以下のような性質を持ちます。

  1. 同一の無差別曲線上の2点 x = (x_1, x_2),  y = (y_1, y_2)について、 x_1 \lt y_1ならば MRS(x) \gt MRS(y)
  2. 同一の無差別曲線上で、 x_1 \to 0とすると、 MRS(x) \to \infty
  3. 同一の無差別曲線上で、 x_1 \to \inftyとすると、 MRS(x) \to 0

以下でこれらを示していきましょう。

 まず、1番目の性質について、無差別曲線は原点に対して凸であったことを思い出すと、自明に分かります。これを、限界代替率逓減といいます。経済学的には、財1が多ければ多いほど、財1の価値が下がるので、新たに財1を得るためにわざわざ財2を犠牲にしたくなくなるという意味です。

 2番目の性質について、仮にそうならなかったとすると、無差別曲線は財2の軸にぶつかってしまいます。これは上記の仮定と矛盾しているため、2番目の性質は成り立たざるを得ません。

 3番目の性質については、2番目の性質と同様に示せます。

おわりに

 この記事では、消費者の選好に関する仮定とその意味、および、無差別曲線や限界代替率といった概念とその性質を紹介しました。タンバ経済研究所では、これからも経済学に関する情報を発信していきます。今回の記事をここまで読んでくださった方は、ぜひコメントなどしてください!とても励みになります!